第49話 質疑応答


 総作戦司令ダコールは、説明を続ける。

「小惑星弾が着弾しなかった場合、メディ級強装駆逐艦2は各6発の対惑星地表用弱装弾を斉射し、可及的速やかに月軌道の外へ撤退。

 対惑星地表用弱装弾の目標、T1C1からT1C6は、後ほどリストを送付する。

 なお、この段階での、対宇宙艦船反物質粒子カートリッジの使用は認めない。攻撃対象の惑星自体が破壊されてなくなってしまうからだ。

 その後は、対惑星地表用弱装弾の斉射が有効であるようならば、さらに20発を斉射、着弾を確認後、艦隊全艦をもって強襲揚陸に掛かる。

 逆に6発の対惑星地表用弱装弾の着弾がすべて妨害された場合、艦隊各艦に積み込まれている対惑星地表用弱装弾、全弾3000による飽和攻撃に移る。さすがに、これをしのぎ切ることはないと見ている。また、これに対応できるとなれば、これは同時に敵艦隊の出撃を意味することとなる。

 その場合は、対宇宙艦船反物質粒子カートリッジの使用を認める。

 艦隊決戦で雌雄を決することができれば、敵本星の制圧は容易だ。

 場当たり的な作戦で申し訳ないが、敵の戦力評価がまったくできていない段階での立案なので、このようなものになってしまうのは許されたい」

「質問はあるか?」

 と、これは副司令兼艦隊旗艦艦長バンレート。


 グロス級戦艦の艦長が手を挙げる。

「確認させていただきたい。

 作戦空域は、敵本星を回る月の軌道内、こちらはその中には極力入らないという、アウトレンジ戦に徹するということでよろしいか?」

「結構だ」


 メディ級駆逐艦の艦長が手を挙げる。

「駆逐艦の中口径対惑星地表用弱装弾は、戦艦の大口径弾と比べて射程が短い。

 月軌道外からだと、実体弾ということもあり、命中率が下がるが構わないのか?

 もう1つ、作戦開始時のメディ級強装駆逐艦2はどう決めるのか?

 志願か?」

「作戦目的がピンポイントの破壊ではないことから、構わない」

 と、ダコールが答える。


 対惑星地表用弱装弾は、実体弾であるゆえに光速での飛翔は不可能だ。つまり、命中までに一定の時間が必要となる。その分の見越し射撃が必要になることから、精密性に欠ける。

 誘導弾として制御機能を持っていた時期もあったが、今は外されているため、常にこの問題はつきまとっていた。


 これには理由がある。

 どのような弾頭でも、亜光速で標的にぶつかれば結果は同じなのである。移動エネルギーが大きすぎて、対象を破壊しすぎてしまう。弱装弾は、発射速度をあえて遅くした実体弾だが、あまりに遅くしすぎるとさらに命中精度が下がる問題がある。なので、弾頭にも着弾前の減速機構が組み込まれているのだ。

 弾頭を十分に遅くすることで、かつての核兵器レベルから大型爆弾レベルまで総エネルギーの制御を可能としたのだが、それなりの制動用エネルギーを積まねばならなくなった。結果として、誘導制御機能は削られたのだ。

 コンピュータ制御による精密射撃で、誘導制御機能はカバーできると考えられたが、弾頭総エネルギー制御は、他に方法がなかったのだ。

 なお、そこまで手をかけても、ミサイルより砲弾の方が遥かに安い。

 それが、最終的にこのような形に落ち着いた理由である。


「また、強装駆逐艦2の決定は、艦長の志願でよいと考えている」

 ダコールは続ける。

「だとすると、強装処理が未だなされていない我が艦では、手を挙げる権利がないということか?」

「そうだ。

 貴艦にはその資格がない。

 今回の場合、敵の正体を明らかにする前に受ける損害は、敵の手にみすみす乗った恥ずべきものと考える。無駄な損害は、決戦前に被りたくはない」

「了解した」

 メディ級駆逐艦の艦長は、しぶしぶと席に座る。

 裏を返せば、これは士気が高いということだ。悪いことではない。


 このあたりから、質問が増えた。議論が活発になったのだ。

 複数の手が上がる。

「全弾3000による飽和攻撃は多すぎないか?」

「そうは考えない。

 発射から着弾までの時間があることから、敵に対処の時間を与えることとなる。むしろ、全弾凌ぎ切られる危惧を感じている」


「敵本星至近での艦隊決戦の場合、本星自体を盾もしくは背にして艦隊配置されたら対宇宙艦船反物質粒子カートリッジが使えなくなるのではないか?」

「その際には、誘導ミサイルと艦載機による攻撃に切り替えるまで。

 敵艦隊の規模がそれでは対処しきれないほどに大きかったら、対宇宙艦船反物質粒子カートリッジを使用検討以前に、我が艦隊では勝てぬ規模ということになる。

 その場合は、速やかな撤退が必要となる」


「強襲揚陸後の地上戦では、敵首魁の生け捕りを目的とするか?」

「投降してきた場合のみ。

 事前空爆の段階で排除されても、仕方ないと考えている。

 通常のマニュアルどおりの攻撃でよい」

「だが、敵首魁の生け捕りできないと、敵の謎は解けないのではないか?」

「敵本星のエネルギー収支の謎は、市街地に及んでいる。その恩恵は一般市民に至るまで享受していると考えられることから、情報は得られると判断している」

「了解した」


「あえて踏み込んだ質問をしたい。

 あくまで噂レベルの話だが、総作戦司令は我ら母星への政治的配慮で作戦を急いでいると聞いた。敵の実力があまりに不明である以上、このようなことに惑わされず、さらに時間を掛けての威力偵察が必要ではないか?」

「我らはすでに、15日を敵に予定の打撃を与えられないままに過ごしてきた。偵察衛星による事前観察を含めれば30日以上だ。

 時間を掛けて威力偵察を否定するものではないが、さらに15日を掛けたとしても、事態の打破が可能なほどの情報収集は難しいと考えるに至っている。

 戦争とは、どこかで矛を交えずには済まないものだ、それを今に設定しただけのことであり、噂のような事態があったとしても、それによって判断が変わったということはない」

 その回答を最後に、場は静寂に包まれた。


 バンレートが言う。

「それでは、勝利を祈念し、我が母星の恵みを」

 母星の果実酒が運ばれてくる。

 これで乾杯を済ませたら、出撃前ブリーフィングは終わる。



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あとがき

次回50話、いよいよ戦場へ……

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