第48話 総艦長ブリーフィング


 ゼルンバスの王は外務省の長、ラウルに聞く。

「コリタスの副王の制度は、副王の家系があるのだったな?」

「御意」

「これからの5年の間に、その家系を王の家系に持っていけるか?

 穏便に、だ」

「副王の家系は、副王の理由があります。

 また、彼の国には王子がおりますし、王弟もおります。

 その王子は数日後にはここマルーラに着く予定でございますし、家系まるごととなると、よほどの『事故』が必要となりましょう。

 まさか、ここマルーラで幼子を排除もできませぬし……」

「ふむ」

 王は、一瞬考え込んだ。


「後のこともある。禅譲の路線には持って行きたいものよ」

「……副王の娘御のロレッタ殿が、ゼルンバスに来ていると聞きました。

 留学期間中に、王子とロレッタ殿の両方に手を打つことをお許し願えますか?」

「許す。

 ただ、ロレッタはモイーズが後見人ゆえ、そこには気を使え」

「わかりましてございます」

「天からの敵との戦いがキリがついたら、諸王にとって我々こそが敵になりかねぬ。対策を考えておかねばな。安心できるところが2国あれば、早々は酷いことにはならぬ」

「御意」

「これで後顧の憂いはなくなる。

 前を見て、天からの敵と戦う時ぞ。

 天の敵よ、見ているがいい。ニウアの10万人の仇、今こそ取ろうぞ。

 ……ラウルよ、勝つにせよ負けるにせよ、最後は天からの敵と意思を通じる必要があろう。今から模擬交渉を繰り返し、抜かりなきようにしておけ」

「心して仕ります」

「では、下がれ」

「ははっ」

 ラウルは、玉座の間から出ていく。


 玉座の間から退出の直前、ラウルは一瞬振り返った。

 儀官と書記官のみが残った玉座の間で、王はさらになにかを考え続けていた。

 その姿は、苦悩と孤独に満ちているように見えた。

 もしかしたら、これから生じるであろう数十万、数百万の死者の影に怯えているのかも知れなかった。神ならぬ人の身で、その恨みのすべてを引き受けねばならぬのだ。その重圧を思うと、ラウルの全身に震えが走った。

 願わくば勝ちたいものだと、ラウルは祈るしかなかった。



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 アーヴァー級宇宙戦艦のブリーフィング・ルームには、総作戦司令ダコールが招集した艦隊の艦長全員、100余名が揃っていた。ダコール艦隊の、人的中枢と言っていい人材たちだ。

 恒例の、出撃前の総艦長ブリーフィングである。


 副司令のバンレートが、今までの経緯を説明した。とはいっても、すべての艦長がすでに理解していることだ。各艦はデータリンクでリアルタイムに情報のやり取りはされてきているし、連携戦術戦闘艦橋C.I.C.での作戦指揮も、ダコールは艦隊内での共有を禁じてきてはいない。

 あくまで、これから説明されるダコールの作戦の前提の整理であり、前置きなのだ。とはいえ、これが重要なのである。


「というわけで、小惑星弾が期待どおりの戦果を上げたのは最初の1発のみ。

 2発目はほぼ空振りになり、3発目、4発目は命中すらしなかった。それも、3発目、4発目では意味が違う。4発目は、スラスターを使い、進路維持の手を打ち尽くしたが、それでも外された。

 敵は紛れもなく宇宙空間戦闘への対応力を持っている」

 声にならない呻きが、艦長たちの口から漏れる。

 これは、ある種の覚悟を強いられたのである。


 偵察衛星で映された、地表の町並みからは想像もできない事実である。

 王がいて、騎士がいて、弓矢と剣と槍で戦っている連中が、なぜそのような対応力を持っているのかがどうしてもわからない。

 ダコールが慎重にならざるをえなかったということを、改めて思い知っている。



 かつて、宇宙には胚種広布パンスペルミアがされた過去があった。

 ゆえに星は違えども、進化の過程で似た生物がどこでも発生した。

 それらの生物は、遠近感を得るための2つの目を持ち、音源の方向を得るために2つの耳を持った。口と鼻の最短な位置は、安全な食物摂取に資した。

 さらに、胚種広布パンスペルミアが繰り返されたこともあり、人類という概念は、汎宇宙的なものとなった。交配までできなくとも、似たような形に収斂していったのである。


 ハードが似ていれば、そこに乗るソフトも似てこざるをえない。

 星は違えども、文明の進歩は一定の枠に収まることが、各宇宙方面軍の蓄積した知見から経験的に知られている。

 未だエネルギー供給が核分裂炉未満の技術レベルでされている文明は、宇宙でそう珍しいものではない。

 いくつか大型爆弾なりを落とせば、10日もかからずに一方的に征服できる。戦死者など出ようはずもない。


 だが、今回は「一方的に」は事態が進んでいない。

 未だ艦隊に損害は皆無だが、全艦出撃ともなればどのような被害が出るか知れたものではない。そして、その被害は自艦かもしれない。

 各艦長は、そこまで正確に認識していたのだ。


 ダコールは口を開いた。

「偵察衛星では、敵の宇宙空間戦闘対応力の一端をも突き止めることはできなかった。

 小惑星弾の全センサーからのデータを旗艦のメインコンピュータで分析させたが、そこからもなにも出てこない。今まで、全方面軍で経験したことがない事態ということだ。

 ということは、敵の全容を知るには、一当て、やってみるしかない」

 各艦長たちは静まり返っている。

 問題は、その「一当て」をどう行うかなのだ。


「5弾目の小惑星弾を、円錐陣形で後を追う。

 敵惑星月軌道内に入るのに合わせ、艦隊停止。メディ級強装駆逐艦2が突出し、小惑星弾の後を追う。

 小惑星弾が着弾した場合、メディ級2隻が各3発の対惑星地表用弱装弾を発射する。これで敵惑星都市7か所を破壊した後、艦隊全艦をもって強襲揚陸に掛かる。

 組織的抵抗勢力は全て排除。

 個別的抵抗勢力は、こちらの防御性能を超えるものについては排除、超えない者についてはショックガンを使用のこと。

 これらの手順は、いつも通りだ。

 問題は、小惑星弾が着弾しなかった場合だ」

 ブリーフィング・ルームは静けさに包まれた。



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あとがき

さてさて、どうしますかねーww

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