第17話 掃討
玉座の間にたどり着いた各兵たちは、事前の命令どおり
そして、自ら飛んできたところに戻るのは、同士討ちを避けるためであった。
旅団長は剣を抜き、血に塗れた
そこには、顔面蒼白のまま、それでもそこに座し続けるアニバール王の姿があった。
襲撃の報が届いて、最初の
「ゼルンバスの飛竜旅団だな?
ゼルンバスの王は、セビエに宣戦布告したではないか。
お前たちは、セビエに向かっていたのではなかったのか?
なのに、我が国に宣戦布告もなしに奇襲をかけるとは、国同士の取り決めを踏みにじる……」
「ご容赦!」
旅団長は、震える話し続けていたアニバールの王の言には応じず、そのままその首を刎ねた。
その首が床に落ちる前に、返す剣で玉座の横でひれ伏している大臣と思しき老人の頭を叩き割る。
「お前こそ、『天眼通の術で他国の王室の執政の場を覗かない』という禁を犯しているではないか」
転がる王の首に旅団長は吐き捨てた。
セビエの王に対しゼルンバスの王は、北の隣国セビエの第二の都市ネイベンの処置について、宣戦布告も辞さずと露骨な脅しを掛けた。それは、アニバール侵攻への軍備という事実を隠すためだった。
そして、その情報統制は揺るぎなかった。ゆえに、魔法を使って覗かぬ限り、アニバールの王がセビエへの軍備のことを知っているはずはないのだ。
改めて、王宮の各所から悲鳴が上がっている。
100人ほどの兵が、王族の首実検に走り回りだした。王族の名簿がすべて塗りつぶされるまで、虐殺が止むことはない。
だが、残虐さには意味がある。
ゼルンバスの王は天空からの敵と戦うため、どの王にも反逆されない絶対の王、いや、この惑星の至高の存在にならなければならないのだ。それも数日という極めて短期間に。
そのためには、敵から以上に味方からも恐れられなければならぬ。
そして、そのための犠牲こそ、今、この時に生じているものである以上、容赦はできない。この場での容赦は、将来 10倍の、いや100倍の数の虐殺を生んでしまうかもしれない。
そもそも天空からの敵に敗北したら、この惑星の全ての人間が殺されるかもしれないのだ。それを避けるための今の虐殺である。
むせ返るような鮮血の血腥さの中、通信担当の魔術師が青い顔で通信があったことを伝えてくる。兵士でない彼は、血に慣れていない。生首がごろごろ転がっている中で、平然としているためには経験が必要だ。
「副旅団長から、報告あり。
静養中の一家5人、ことごとく排除完了」
その報告を受けた旅団長は、一瞬瞑目した。
一家の中には、まだ13歳の女の子もいたはずである。そのような子ですら殺さねばならぬからこそ、腹心である副旅団長を差し向けたのだ。
「派遣中隊長からも報告。
地方視察中の王族一行、全員排除に成功」
「では、両隊とも、ただちにアニバール王宮の本隊に合流せよと伝えろ」
「はっ」
通信担当の魔術師が、簡易魔素炉を前にして呪文を唱え、命令を伝える。詠唱が終わるとそのまま
いきなりこれでは辛かろうとは思うが、如何ともし難い。
兵が1人、駆け込んできて報告する。
「現在後宮にて、女官全員の排除を完了」
これで、妊婦としても王族の血を伝える者もいなくなった。
「王族の名簿は、あと2名を残すのみ」
「ゼルンバスの大将軍殿に経緯を報告。
同時に、残す2名について、ゼルンバス魔法省魔術師の天眼通および天耳通の術をもって、発見に協力されたし、と」
「はっ!」
極々短い時間で作戦を終了させ、ゼルンバス王都に戻らねばならない。
旅団長には、うろうろと王族2名を探し回っている時間が惜しかった。
「操竜担当は、
その他の者は、王宮の外周に沿って、ここの燃料庫に備蓄されていた油を撒け。いよいよ間に合わねば、隠れた所ごと焼き払う。
間に合った場合、ここの王都の民が火を着けるか否か見ものだな。善政を敷いてさえいれば、燃やされずに済もうぞ」
自分の受け持ち範囲の探索を終えた兵たちが、返り血で革鎧を赤く染めてぞくぞくと戻ってくるのにそう命じる。
いくら奇襲が成功し、王族を鏖殺し、指揮系統を破壊したとしても、アニバールの国家に忠誠を誓った軍人もいるだろう。
その指揮に、担ぎ出される貴族もいよう。
はるか遠い血縁から、王族の生き残りを自称する愚か者も現れよう。
だから、彼らが王宮に押し寄せる前に、飛び立ってしまうのだ。
未だ重傷者すら出していない、この圧倒的勝利を完全なものとするために。
大将軍フィリベールは、飛竜旅団からの報告に目を通し、天眼通アベルと天耳通リゼットを呼んだ。
「アニバールの王宮で王族が2人、飛竜旅団の兵の目から逃れているらしい。探してくれとのことだ。
即時、頼む」
そう言われてアベルは目を凝らし、リゼットは露骨に面倒くさそうに呪文を唱えだした。
アベルの手には転送されてきたアニバールの王族の名簿があり、塗りつぶされていない2人の名がある。そこには細密画で顔も描かれているので、見間違うことはない。
アニバールの方角を向いた、アベルの顔が強張った。
アニバールの王宮の惨状が見えたのだろう。だが、奥歯を噛みしめるようにして観察を続けている。巖のように堅くなった頬が、受けた衝撃の大きさを物語っていた。
一方でリゼットは、対象的に不遜な態度を崩さない。
「なんにも聞こえなーい!」
へらへらとした口調でリゼットが言う。
聞くだけでは、なにが起きているか認識できずにいるということだ。
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あとがき
2000人の兵が3000人の文民を瞬殺。
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