第16話 空襲
「書記官。
飛竜旅団、旅団長に大将軍フィリベールの名において命令書を作成、派遣。
内容は……」
フィリベールは、数瞬考え込んだ。そして、次に口を開いた時に、迷いは一切振り捨てていた。
「内容は、以下のとおり。
上空の敵からの偵察があるため、
なお、アニバール側にも撃たせてはならない。
そのためには、急降下強襲等の手段をもって、
補遺。
旅団長、副旅団長の権限について。
作戦目的の達成に関し、王国軍人としての権限限定を解除する。貴旅団の練度に期待する。
以上」
「権限限定の解除について、王の許しを得る文書も作りますか?」
書記官が、事務的に確認を求めてきた。
ただ、その目は不安定に泳いでいて、フィリベールの命令の恐ろしさを理解していることを示していた。
「不要だ。
王は知るべきではない」
と、大将軍フィリベールは言い切った。
権限限定の解除。
これは王国軍人を高潔なる軍人たらしめ、誇りとともに生き、誇りとともに戦い、誇りとともに死ぬと定めた勅語、それすら解除される措置である。
王に許可を求めるなど論外であった。
汚い作戦であればこそ、大将軍フィリベールの独走としておかねば王権が汚れる。
これで、東の隣国のアニバールの王族の
その許可を出してしまったというより、許可をしたという形で命じたのだ。
それほどに、
ただちに命令書は作成され、簡易魔素炉から書類は送られていった。
もはや、後戻りはできない。
戦いの度に思う業を、再びフィリベールは噛み締めた。
すべての罪を背負って地獄に墜ちる。
それも大将軍としての職務のうち。そうフィリベールは考えていた。
それから四半日。
飛竜旅団は東の隣国のアニバールの首都、キリボの高高度上空に達していた。
隊全体はキリボから見上げても太陽の中にあり、よほど目が良くても見えないだろう。
また、アニバールにも天眼の術を能くする魔術師はいるだろうが、魔素の供給源である太陽に重なっているものを見るのは不可能に近い。それに、居もしないセビエに向かった隠密行動の軍を捜すのに手間取っていて、天の大岩が降ってくる角度以外の上空を見ることなど考えにくい。
そして、隊は3つに分かれた。作戦対象が王都に揃っていないからだ。地方視察中の王族が1名、静養中の一家が1つ。
地方視察中の王族の1名については、継承順位も低く、従って護衛も数多くはないので10頭の
……これには、忸怩たる理由があるからだ。
旅団長が右手を振り下ろし、2隊はそれぞれ目的に向かった。
同時に、残りの900頭以上の
鳥の翼のような厚みに乏しく、羽毛というより皮膚の膜なのだ。したがって、急激な引き起こしには耐えられない。とはいえ、ぎりぎりまで速度は保ちたい。
個としてではなく、編隊としてのこの見極めは、旅団長の経験と才能に左右される。もっとも練度が低い兵、もっとも翼の弱い
とはいえ、飛竜旅団のもっとも練度が低い兵、もっとも翼の弱い
落下中、旅団長は意識してゆっくりの呼吸を10回繰り返し、散開を命じた。
王宮守備兵たちは、ここに至って初めて自分たちの危機に気がついた。
だが、報告もできなければ、まともに叫び声を上げる余裕すらなかった。
アニバールの王宮の各所に、5頭、10頭と分散して、練度の高いものは王宮の高いところ、練度の低いものは王宮の低いところと
落下のスピードがそのまま生きているため、通常の人間ではパニックになる速度である。その速度のままでも
目も眩むような
斬られた腕や内臓が撒き散らされ、あまつさえ胴を両断された者も多い。剣を抜き合わせた者もいたが、一瞬でへし折られ、両断された。
王宮の至るところで、振り返ることも躊躇われる、酸鼻な光景が広がっていった。
誇りを持って生きるために、ゼルンバス王国の軍人は女子供を殺さない。それを形にした軍に対する王勅は、今回は完全に反故にされている。
その理由は各兵に説明されており、徹底されていた。自分たちは、天からの強大な敵に監視された状態で、手の内を隠したまま戦わねばならぬのだ。容赦の余裕はない。
監視のからくりは人の目には見えなかったが、
そして今、どの
それが上手く行っているため、アニバール王宮付きの魔術師たちでさえ、術を使うための詠唱の時間を取れなかった。
その結果は瞬く間の3000人からの虐殺であり、アニバール王宮の行政機能は完全に失われた。
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あとがき
今回と、次の次の回のための残酷描写ありなのです……
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