第13話 意図推測


 大規模な編隊をきっちりと組み、大規模ゆえに各所で異なる風の影響を受けずにその形を保つ。これは、獣に乗ろうが航宙空母から発進する艦載空間戦闘機に乗ろうが、必要なスキルは変わらない。

 光速に近い速度で飛べば、真空の宇宙空間ですら漂っている水素原子の影響で、さながら風を受けように編隊の形は崩れてしまうものなのだ。


 だが、ここまで練度が高いパイロットだと、ばらばらに飛ぶより編隊飛行の方が遥かに楽という境地に達しているだろう。

 編隊長は僚機を疲れさせないように、最小限の当て舵のみで飛ぶことができるし、僚機は編隊長を、たとえ大地に突っ込む最期の瞬間であっても着き従って行けるほど信頼しているということだ。


 そもそも編隊長が最小限の当て舵のみで飛ぶことができないと、風などの影響で機は腕の長さほども揺れるものだ。そうなると、2番機はそれに従うための探り舵が必要となり、身長分もの揺れが生じることになる。その2番機の揺れに追随する3番機は、常時身長の倍の揺れの探り舵を行うことになり疲労困憊してしまう。こうなってしまうと、4番機以降はもはや編隊とは言えず、戦うことも覚束ない。


 こうならないためには、編隊長の腕に加え、各機の役割やポジションの移動許容量などの検討が、飛ぶ以前から徹底して行われなければならない。離着陸時の機動の検討も行われていないと空中衝突しかねないし、作戦行動時の検討はさらに厚いだろう。

 ただ単に毎日飛んだからといって、できることではないのだ。

 まして、羽ばたく生き物に乗ってとなれば、さらにハードルは高いはずだ。

 戦術戦闘艦橋C.I.C.のオペレーター士官たちは、それを一目で見抜いたのである。



「これだけの兵力となると、この星の最大のものということになるだろうな」

 その総作戦司令ダコールの声に、副司令兼艦隊旗艦艦長のバンレートが応じる。

「乗っている人員の練度も相当に高いことが窺えますから、通常なら使い惜しみするクラス、戦技教導隊クラスまで混じっていると言っていいかと」

「それを初っ端からぶつけてくる意味はなんだ?」

 そう問い、それにダコールは自分自身で応じていた。

「……なるほどな」

 と。


「なるほどとは?」

「副司令、貴官なら聞かずともわかるだろう?

 この編隊の作戦目的だ。

 そもそも、我々のコードT1P1の設定理由はなんだった?」

「2つの相克する。版図の中間点だったからです。

 対象星内で内乱が起きれば、我々にとって有利と」

「そうだ。

 その内乱が今、起きた。

 だが……」

 狙いどおりの作戦効果が上がったはずなのに、ダコールの口調は苦い。


「だが、とはなにか?」

「繰り返す。

 貴官なら、聞かずともわかるはずではないか」

「申し上げてもよろしいでしょうか?」

「話したまえ。

 遠慮は不要だ」

 ここまで水を向けられ、バンレートは口を開くことにした。


 この会話は、ダコールとバンレートの会話にしてそうではない。

 戦闘艦橋C.I.C.士官たちへ聞かせるという意味が大きい。つまり、これも実戦教練なのだ。不意の艦隊遭遇戦ならこんな余裕はないが、今は違う。そして、これは戦闘艦橋C.I.C.士官たちの意見具申の機会にもなる。

 士官たちには機会を逃さず考えさせていかないと、勢いだけで戦う無様な艦隊になってしまう。それをダコールが恐れているのを、バンレートは知っている。また、バンレートは、ダコールの方法論を士官たちに学ばせたいと思っている。

 なんだかんだ言って、2人の付き合いは士官学校のチェス部の先輩後輩に始まっている。信頼関係は強固なのだ。



 バンレートは、総作戦司令に自分の見立てを話す。

「あの兵力の大きさと練度は、全力出撃と見ます。

 そして、後先考えない破れかぶれの作戦にも見えません。国力から言って、第二の都市を失ったからと言っても余力はあるでしょうし、才幹のある人材もいる。

 さらに、首都は空にできず、やむなく練度の低い部隊を留守居部隊としているでしょう。

 となると、あの大兵力はすぐに戻ることを前提とした短期決戦を意図したものと推測できますし、その期間は積んでいる食糧の量から1日から2日と推測できます。あの獣の餌まで入っていると考えると、首から掛けたバッグはあまりに小さい。

 確実なる短期決戦の目的は、我々に対抗するために、この惑星の指揮権の統一を図ったものかと小官は推測します」

「私もそう思う」

 ダコールは、バンレートの言葉を肯定した。


「つまりこれは、自滅に至る内乱ではありません。

 我々は、この惑星に統一王朝を作るきっかけを作ってしまったのではないでしょうか?

 となると作戦目的は、どちらの版図も王政であることが窺えることから、対象王族の鏖殺みなごろしでしょう。

 自分たちは無傷のまま、軍や警備に命令が下る前に命令権を持つ王族全員を排除し、残った組織は丸ごと接収するつもりでしょう。

 さらにその後は、国を丸ごと併合する気かと。

 いや、併合する必要はないのかもしません。

 この星の指揮権の統一は、相手王族を鏖殺できた段階で可能です」

「うむ」

 ダコールは、再度頷き、無言のままだ。

 バンレートがまだまだ考察を語りきっていないのを、その口調から察しているのだ。


「そうなると、もう1つ想像ができます。

 この攻め手側の版図の軍令部は、虎の子の部隊をぶつけられるだけの確実な情報力があることを示しています。これだけの部隊の出動を空振りに済ませるわけには行きませんし、相手国の王族の王位継承権を持つ一人一人の居場所、王族のいる施設の警備状態等、すべて掴んでいなければできぬ作戦です。

 これは逆に見れば、相手国に根を張った諜報網がすべて明らかになってしまいます。それでも実行したということは、もうこの国は存在しないものとして攻め手側の王は次の作戦を考えているでしょう」

「それにも同意する」


 戦術戦闘艦橋C.I.C.のオペレーター士官たちは、2人の声に耳を澄ませている。

 そして、その間にも、スクリーンの中では翼の獣は飛び続けている。確実なる破滅が、翼が羽ばたかれる度に近づいていく。


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あとがき

もう13話。

らしく不吉な感じに終わらせてみましたw

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