第12話 アーヴァー級宇宙戦艦、第1連携戦術戦闘艦橋
暗い部屋には、かすかに電子機器の唸りが響いていた。
計器の示すデータ表示のほのかな明かりだけが、オペレーター士官たちの顔を照らしている。
ここは、アーヴァー級宇宙戦艦の第1連携戦術
第1、第2は、機能保全のために交互に運用されている。見た目、その違いは皆無だ。被弾時に部屋替えをする想定があるので、オペレーター士官たちの戸惑いを避けるためである。
レーダーパネルを見つめていた士官が声を上げた。
「コード T1P2への小惑星弾の命中を確認。
小惑星弾搭載カメラからの映像も確認済み。
監視衛星による戦果評価に入ります」
「着弾に際し、どれほど些細なものでもよいが妨害行為はあったか?」
そう聞く総作戦司令ダコールの声は、再び囁きと言ってよいほど小さかった。
これにより、部下たちは必然的に耳を澄ますのだ。
「ネガティブ」
「三弾目、コリジョンコースのまま。
こちらも進路への妨害を認めず」
「四弾目、最終弾も妨害を認めず」
「よろしい。
戦果評価、概算で良いので知らせ。
前回との相違はあるか?」
「光学偵察により、対象の完全破壊を確認。
赤外光偵察に切り替えます。
対象の……」
観測担当の士官が口ごもる。
「どうした?」
「コード T1P2の住民は、脱出済みだった可能性があります。
未だ着弾点の熱量が大きく、詳細な観測はできていないものの、着弾点周囲に大量の体温相当と思われる熱反応あり。また、小惑星弾搭載カメラからの映像に、衝突直前でも人影を認めず。
ただし、まだ熱量測定データに誤差が大きく、確証には至らず。家畜によるものの可能性もあります」
「やはり、この星には裏があったか……」
ダコールは呟く。予想が当たっても、当然のことながら喜びはない。
家畜の体温だとしても結論は変わらない。爆心地から逃がした者がいるのだ。そして、少なくともその者は、飛来する小惑星の観測手段を持っている。これは、簡易な望遠鏡などでは決してできないことなので、一定の科学力も有していると判断できる。
こうなると、初弾の戦果評価も洗い直さねばならない。小惑星を落とすなどという消極的作戦は、この惑星相手では最初から効果を生み得なかったかもしれない。
「次の一弾は、偵察を兼ねてそのまま落とす。
それで、今回の結果がこちらを騙せると思っての擬態なのか、擬態だとしたらどのような目的があってのものなのかを見極める。
旗艦と工作艦はそのまま現空域に留まり、それぞれの小惑星弾の観測を続けよ。各セクション、偵察、観測、記録を怠るな」
「了解」
さらに、ダコールの指示は細かく続く。
「工作艦は、旗艦対消滅炉より交代でエネルギー補給。他の艦は3交代で外周惑星基地に戻り、そこの対消滅炉よりエネルギー補給。
なお、外周惑星基地で各艦は、主砲弾につき、対宇宙艦船反物質粒子カートリッジの半分を下ろし、対惑星地表用弱装弾に替え。
補給中は哨戒を厳とせよ。
艦隊戦闘出動を3日後に想定し、準備にかかれ」
準備だけで済めばよいがと、ダコールは思う。だが、そうは問屋が卸すまい。こういう時の悪い予感に限って、妙に当たるものなのだ。
それでもとりあえず、次弾が落ちるまでの時間がある。艦隊出動準備にも、十分すぎるほどの時間的余裕がある。
自室で誰にも邪魔されず、紅茶の香りとともにゆっくり考え、備えを万全としようではないか。
「では、作戦指揮権を一時副司令に預ける」
「副司令兼旗艦艦長、作戦指揮権、受け取りました」
「総作戦司令、退室」
「退室」
その復唱に合わせて、ダコールは立ち上がった。
だが……。
「お待ち下さい」
前回とは異なり、今回は緊張を帯びた声が退室を遮った。
「なんだ?」
「初弾コードT1P1を設定した対象版図から、大量の熱源が東に向かい動き出しました。文明レベル比にしては、ですが、最速です。コードT1P1の方向を目指しています」
「退室、取り消し。
作戦指揮権一時移譲、取り消し」
「取り消し、了解」
そう答える副司令兼艦隊旗艦艦長バンレートの声は、どことなく安堵感が感じられた。これは、副司令たる自分が対応しきれない事態が生じたと感じていたからに違いない。
ダコールはそれを無視して、オペレーター士官に声を掛ける。
「コードT1P1なら、監視モニターをまだ回収していないはずだ。
光学映像出せるか?」
「今、スクリーンに出します」
担当士官が、タッチスクリーンに指を走らせた。
巨大なメインスクリーンが一気に明るくなり、赤や紫、緑の植物に覆われた地表が映し出された。その臨場感は、空気に漂う匂いさえも伝えてくるようだ。
次の瞬間、画像が大きく動き、コードT1P1の爆心地を映し出した。さらにズームとピントが同時に調整され、鱗と羽の両方が生えた翼のある獣の群れと、それに乗った兵士が浮かび上がるように捉えられた。
画面一面に、1000頭近くが編隊を組んで飛んでいる。カメラはさらにズームし、1頭あたり2人の兵士が獣の首のあたりに跨っているのが見えた。
各兵士が装備している分厚い革製らしき鎧と、銃剣のついた銃らしいもの、剣らしきものも見える。獣の首には割りと大きなバッグが掛かっており、おそらくは弾薬、食料、水が入っているのだろう。獣の餌も入っていると考えると、バッグの大きさから作戦に要する日数の予想は難しくなる。
「これは……」
「原始的なものとはいえ、これは凄い」
オペレーター士官たちから、意図せず声が漏れた。
これは装備に対してではない。その兵士と獣の練度に対してである。
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あとがき
いよいよ事態は次のフェーズに向けて動き出しました。
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