第11話




 夢を見た。

 長い縁側に座り日本庭園に向かって足をぶらぶらさせながら、幼い少女が庭師である私に訴えるのだ。


 退屈だ何かして、と。


 苔の上の枯れ葉をい草の小さな箒で掃いていた私は少女に近寄り、箒とちり取りを腰にぶら下げると黒の玉砂利の上で、頭に巻いていた鉢巻きを手に持ちとぐろを巻いて竜の置物ですと言った。

 途端、少女はぎゃんぎゃんと泣き喚き出した。

 つまらないつまらないと言って。

 つまらないと泣き出すなんて不思議な生き物だなあ。

 ぼんやり眺めながらも、ふと、どうしてか、思ったのだ。

 よかったなあって。




「ど。どうしてないているの?わたしがつまらないって言ったから?わたしがなきだしたから?なかないで。ないちゃだめ。わらって」

「ごめんなさい。どういうわけだか、涙が止まらなくて。それにおかしくもないのに笑えません」

「えええ。おとななのにわらえないの?もう。しょうがないわね。そのてぬぐいをかして」

「汚いからだめです」

「ばっちいの?」

「はい。汚いし臭いのでだめです」

「えーもう。じゃあちょっと待っていてよ」


 泣いて怒って大変だなあ。

 思いながらぼんやりと元気よく駆け走って行く小さな背中を見つめた。

 涙は枯れる事なく、流れ続けた。


 よかったなあ。

 よかった。

 平和な世界で今度こそゆったりとみんなと一緒に過ごせるんだ。




『これからおめえたちと何をしてやろうかなあ』






(スタートラインが変化したって。ままならないものだなあ)











(2023.4.17)



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