第5話




 血で血を洗う抗争は組長を継ぐ前から、それこそ自分が生まれる前よりずっと昔から続いて来た。

 おまえも同じだ。

 先代から言われて来た。

 おまえも戦い続けるのだ。

 組を守る為に。

 組員を守る為に。

 地域の秩序を、しいては平和を守る為に。


 嫌だ。

 初めて言われた時からずっと持って来た想い。

 自分はいい。

 組員が血を流すのは嫌だ。

 嫌だった。


 けれど知っている。

 嫌だと言っても、言うだけでは何も解決しない。

 ならば、組員が血を流さないようにするにはどうしたらいいのか。

 戦いを止めればいい。

 敵対組織と和平の盃を交わせばいい。

 和平の盃を交わすにはどうすればいいのか。

 敵対する理由がないと示せばいい。

 互いの領分を侵さず傷つけないと示せばいい。

 示すにはどうすればいいのか。


 金。

 土地。

 動力源。

 言葉。

 人間。


 すべてを使った。

 すべてを使えば、落としどころを見つけられると信じていた。






『俺を助けてくれねえか?』


 人が足りなかった。

 助けを必要としていた。

 だから、みなしごに目を付けた。

 けれど、強制はしたくなかった。

 だから、この手を取らなくても生きてはいけるみなしごに、そう問うた。

 この手を取ったみなしごの中に、あいつも居た。




 死んでほしくなかった。

 組員もみなしごも。

 人間として生きてほしかった。

 けれど。

 次々と消えゆく命を眼前にして、わからなくなった。




 俺はただ殺し続けているだけではないのか。











(2023.4.13)



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