第4話




 前髪をかき上げて露になった広い額。

 刻まれた眉間の皺。

 鋭い目。

 少しこけた頬。

 すーっと通った鼻。

 薄い唇。

 胸に垂らす長い三つ編み。

 骨太で骨格がしっかりとしている体躯。

 

 前世の組長と外見が瓜二つだっただけではない。

 写真からも伝わるその静かな気迫だ。

 深淵の森の如きその気迫を写真越しに受けた瞬間。

 前世の記憶が瞬く間に浮かび上がったのだ。






 王族に連なる者、財を成している者、研究者など、世間に名を知られる者が招待を受けるこの茶会で、舞春まいはるは暗殺者としてではなく、表向きの家業としている薬草栽培で財を成した一族の者として、義父と共に参加をしていた。


(オヤジに会える)


 王子が主催するこの茶会。

 前世は組長であったと確信している王子と初めて会う舞春は今、ほんの僅か緊張した面持ちで義父に紹介された人々と挨拶を交していた。

 このような華やかな場に未だに慣れておらず緊張しているのですまったく困った娘ですよ。

 眉を下げる義父からそう説明された招待客が微笑ましいですねと声をかける中。

 その時が来た。


「これはこれは王子様。このような素晴らしき茶会にご招待いただき、真にありがとうございます」

 

 義父が浅く頭を下げて王子に挨拶をすると、王子は小さく頷いて微笑んだ。


「お越しいただき感謝します」

「こちらが私の養女である舞春です」


 ドクドクドクドクと、両耳の奥にも心臓が生成されたのではないかと疑うほどに、脈打つ音が大きく鳴る中。王子に身体を向けられた舞春は緊張を残したまま、スカートの両端を軽く持ち上げて、頭を深々と下げた。


「舞春と申します」

「第二王子のあかつきと申します」


 舞春はスカートから離した手を重ね合わせては下丹田に添えて、真っ直ぐに王子を見てはにかむように微笑んだ。






『敵対国と和平協定を結ぼうとしている第二王子を消せ』


 ボスでもある養父にそう命じられた舞春はいつものように静かに返事をしたが。


(私を拾ってくれたボスには申し訳ないが、私はオヤジを殺しはしない)


 組長としての記憶がなくても構わない。

 究極的には、組長でなくても構わなかった。


(私はオヤジの魂を継ぐ王子の夢の手助けをする)


 現世こそ。

 ボスを、組織を裏切ってでも。


(王子を死なせはしない)











(2023.4.13)



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