24 置き去り

「あれは一年ほど前の戦場でのことだった。その日も、ミレーユは父親の命令で無理やり戦争に行かされた。それは相手の戦力が倍以上、上回っていたからだったらしい。他の戦場にも兵士がかりだされていたためにミレーユが出向くことになったんだ」


ぽつりぽつりとジェイクは語り始めた。


「ミレーユのように魔法を使える者は僅かだ。特に炎を操れるような魔術師はそうそういない。魔法使いが一人いるだけで、百人分の兵力になると言われているくらいだからな」


私は黙って彼の話を聞いていた。

私は、かつて本物のユリアナだった頃、数多の戦場で戦ってきた。でも一度も魔法使いはいなかった。


「戦いは圧倒的にミレーユが率いる部隊が有利だった……何しろ、遠くに離れた敵も炎の魔法で攻撃できるのだから。けれど……誤算があった。それは敵の部隊は銃を装備したいたことだった。先頭部隊は銃を構え、一斉に攻撃を始めた」


ジェイクの説明は私が夢で見た光景と同じだった。


「ユリアナが率いる部隊は次々と敵の攻撃を受け、倒れていった。危うくミレーユも命を落としそうになったが、一人の兵士の犠牲で死なずに済んだ。だが……自分の眼前で、しかも自分をかばったせいで、死んでしまった兵士を前に……ミレーユはあまりのショックで力が暴走してしまい……気づけば当たり一面焼け野原で敵味方を問わず、黒焦げの死体の山が……出来ていたそうだ……」


「同じです……夢で見た光景と……夢でさえ、私はあんなにもショックを受けたのですから、ミレーユの衝撃は相当だったかもしれませんね」


「確かにそうかも知れない……その後、放心状態のミレーユを連れ帰ってきたのが、ほんの僅か生き残った兵士たちだった。その後彼女は高熱を出して一週間も意識が戻らなかったんだ……」


「そうだったのですね……」


やはり、ジェイクはミレーユのことなら何でも知っている。ミレーユはジェイクを単なる政略結婚の相手と割り切っていたけれども、ジェイクは……


「どうかしたのか?」


「い、いえ。なんでもありません。それで、エドモントたちは……? ベルンハルト家の元・騎士たちはどうしていますか?」


「彼らなら、次の仲間たちを捜すために、旅立った。そしてそのまま敵討ちの旅に出ると言っていた」


「え……? う、嘘ですよね?」


ジェイクの言葉に耳を疑う。


「……嘘じゃない。彼らはユリアナには危険な目に遭ってもらいたくはないんだ。何しろ、たった一人だけ生き残ったベルンハルト公爵家の人間だから」


「そんな! 私が何の為に、ここまで来たと思っているのか分かっていたはずですよね!? それなのに……置き去りにして……私に手を引けというのですか!?」


気づけば、私は叫んでいた――



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