25 置き去りの理由

「ユリアナ……落ち着いて聞いてくれ。君は確かに女性でありながら公爵家の女性騎士として戦場で剣を振るい、戦ってきたかもしれない。だが、今のその身体はユリアナのものじゃない。ミレーユの身体なんだ」


ジェイクの言葉は覚悟していたけれども、いざ本人の口から聞かされれば流石にショックだった。


「つまり、この身体はミレーユの物だから……傷つけたくはないってことですよね……?」


私は俯き、声を震わせた。


「ミレーユ……」


「私だって……好きでこの身体に憑依したわけじゃありません! ジェイクさんからしてみれば、この身体から一刻も早く出て行って貰いたいだろうけど……方法が分からないんです! 例え、この身体から出ていけたとしても私は十年前に既に死んでいます! 何処にも行き場を無くした私は……きっと消滅するに決まっています……」


いつの間にか、私の目に涙が溜まる。


「私にはやりのこしたことがあるんです! 私を罠にはめ……そのせいで、私の家族が! ベルンハルト家が滅ぼされてしまったのです! きっと、私の無念の魂が……死にかけていたミレーユ姫の身体に憑依したのでしょう……だったら尚のこと、かたき討ちをさせてくれたっていいじゃないですか! この身体に傷をつけられるのがいやな気持ちは分かりますけど……」


最後の方はすすり泣くように訴えていた。すると――


「違う! 俺はそんなことを言ってるんじゃない! ユリアナが心配だから言ってるんだ!」


ジェイクが私の両肩を掴んできた。その力が強くて……思わず眉をしかめてしまう。


「そう、それだよ……ユリアナ。ちょっと肩を強くつかんだだけなのに……君は痛みに顔を歪めている。第一こんな細腕では剣だって持てないだろう? 女剣士として鍛えてた身体じゃないんだ! 戦いに身を投じても……犬死にするだけだ! それどころか、君を助けようとして……ベルンハルト家の騎士達が命を落とすことになるかもしれないんだぞ!?」


「つまり……わ、私は……足手まといってことですか……?」


けれど、ジェイクは私の問いに答えない。つまり……沈黙は肯定ということなのだ。


「報復を誓っていたユリアナには酷な話かもしれないが……ベルンハルト家の元騎士達は本気で、自分たちが仕えていた公爵家を滅ぼした連中の敵を討とうと考えている。そこへ剣を持つことが出来ないユリアナが戦いに加わっても、足手まといになってしまうんだ。何より、みすみす死なせたくはないと言っていた。それは俺だって同じだ」


「ジェイクさん……」


「だが、方法が無いわけじゃない。いいか? ユリアナ。どうしても報復したいというなら俺と……そのミレーユの身体を利用するんだ」



「え……?」


ジェイクの言葉に、私は目を見張った――

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