12 ジェイクの演説

 荷馬車で彼らの元へ駆けつけると、真っ先にエドモントが大きな声で手を振り、声を掛けてきた。


「この刑務所に入れられていた仲間は全員救出しました!」


私はフードを目深に被ったまま、頷いた。


「ありがとう、エドモント。それにラルフ」


エドモントの隣にいるラルフにも礼を述べた。


「ところで、彼らは一体何者なんだ?」


するとそこへ麻布で出来た囚人服を着た大柄な男性がエドモントに声を掛けてきた。彼は……十年の歳月で大分外見も変わってしまったが、私の見知った騎士だった。

よく見ると、やはり集められた彼らは何処かで見たことのある顔ぶればかりである。


「このふたりは我々の新しい仲間だ。我らが主であるベルンハルト公爵家の人々を全員殺害し、無実の罪を押し付けて我々を捕らえた全ての罪ある者たちに報復するために加わった頼もしい仲間なのだ」


「はじめまして、俺はジェイク。そして……彼女はユリアナだ。これからどうぞよろしく」


ジェイクは私の名前を隠すこと無く、紹介した。

すると途端に周囲がざわめく。


「ユリアナだって……?」

「まさかユリアナ様か?」

「生きておいでだったのか!?」

「顔を見せて下さい!」


「どうする? ユリアナ」


ジェイクが小声で尋ねてくる。


「どのみち、ずっと顔を隠したままではいられませんから」


それにジェイクが私をユリアナとして紹介したのには何らかの理由があるに違いない。

そこで私はフードを取った。


途端に今度はざわめきから戸惑いの声が聞こえてくる。


「誰だ……?」

「ユリアナ様じゃないな」

「同じ名前の少女か?」


「みんな! 聞いて下さい!」


突然ジェイクが大きな声を上げた。するとそれまでざわめていた彼らはおとなしくなった。するとジェイクは語りだした。


「この女性……実は『モルス』国の第三王女です。彼女は生まれながらに魔力を持って生まれてきたため、人々から存在を隠されてきたのです」



「え……?」


あまりの突然の話に私は耳を疑った。もしかするとジェイクの作り話だろうか?


「何だって!?」

「『モルス』国の王女だって!?」

「敵国の者じゃないか!」


当然ジェイクの話に彼の騒ぎは大きくなる。勿論、エドモントにラルフも驚いた様子で彼の話を聞いている。


「落ち着いて下さい! 確かこちらの方はこの国にとって、敵だと思わても仕方ありませんが、ユリアナ様はずっと自分の力を戦争に使われるのを嫌がっていたのです! そのために、高い塔の上に幽閉されてきました! 唯一塔から出られる時は戦場に連れて行かれるときだけでした」


ジェイクの話と、夢に出てきた光景が何となく被ってしまう。


「けれど、ユリアナ様はずっと戦争に反対し続けてきました。そして『モルス』国を捨てて、この国へ逃げてきたのです。言わばあなた方の同士と言えるでしょう!」


ジェイクの話が響き渡った――


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