14 悪夢

 私は夢を見ていた――



『ハアッ! ハァッ!』


荒い息を吐きながら、必死で真っ暗な森の中を走っている。苦しい……もう走れない……


足の痛みも胸の苦しさも限界に達していた。


『探せ! まだ遠くへは行っていないはずだ!』


『必ず見つけ出せ!』


背後では私を追う男たちの声が聞こえてくる。巨木の陰に身を潜めて、そっと声の方を伺うとオレンジ色の松明が幾つも揺らめいてこちらへ近づいて来る様子が分かる。


『……』


私は恐怖で叫び出しそうになるのを抑える為に口を両手で押さえて、地面に座り込んだ。


駄目……! 声を出したり、動いたら見つかってしまう……!


やがて、こちらへ向かって駆けて行く無数の足音と苛立ち紛れの男たちの怒声がどんどん近付いてきた。


お願い……どうか見つかりませんように……!


出来るだけ身体を縮こませ、茂みの中で震えながら隠れていると次第に人々の気配は遠くなっていき……やがて真っ暗な森は静まり返った。それでも私は暫くの間、じっと動かずに堪えていた。


やがて……


ゆっくりと茂みの中から立ち上がり、警戒しながら辺りを見渡してみる。

もう人の気配はすっかり消え、時折遠くの方からフクロウの不気味な声が聞こえるだけだった。


『ここまでくれば……大丈夫よね……?』


だけど、いつまでもこんな真夜中に中にいれば色々な意味で危険だ。何とか森を抜けないと……


私は真っ暗な森の中を、恐怖で震えながら進み始めた。




『ハァ……ハァ……』


どのくらい歩き続けただろうか? で歩き続けたせいか、靴擦れができてしまった。歩くたびに痛みが走る。

粗末な服は、森の木々であちこち引っかけて破けて酷い有様だ。


ただやみくもに歩いては森を抜けられないのではないだろうか?


その時、遠くの方で水が流れるような音が聞こえた。


『水の流れる音……まさか、川でもあるのかしら?』


私は痛む足を必死で堪えながら水音の聞こえる方角へ向かって進んだ。



『あ! 川だわ!』


突然目の前の木々が開け、に照らし出された河原に出た。ずっと森の中を彷徨い歩き続けていたせいで、喉はカラカラだった。


『み、水……』


水が飲みたい――


ふらつく身体を奮い立たせるように、川に近付き……覗き込んだ。川の流れは中々早かったが、水を飲む位は出来そうだ。


川の水を手ですくって飲もうとした時……


『ヒッ‼』


悲鳴が口から洩れる。今まで真っ暗な中を彷徨っていたので気付かなかったが、自分の両手が血で染まっている。

それどころか、着ている服にもあちこちに血が飛び散っている。


『そ、そうだわ……わ、私……』


自分の声が震える。

あまりのショックに気が遠くなっていき……


ドボーンッ‼


川に転落してしまった。川は思っていた以上に深く、足が届かない。流れも速く、冷たい水の中は体力が奪われる。そして私はどんどん流されていく。


『だ、誰か……!』


叫ぶと、水が大量に口の中に流れ込んでくる。苦しい、息が出来ない。


も、もう……駄目……



意識が遠のいていき……私は――

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