第3話 ハイブリッドの季節
おじいさんの引き出しの中には、今は貴重な紙のノートが有りました。
ノートの上には、やはり貴重な紙が一枚、机の上の古風なパソコンでおじいさんが打ち出した文字がありました。
『ゴロー、これを見ているということは、お前も恋の季節を迎え、わしは、死んでいるということだ。
このノートは、わしのおじいさんが、お前たち
読んで参考にしなさい。
読み終えたら、奥にある扉を開き、中の物を使うと良い』
ノートには、ハイブリッドが生みだされるまでの記録が書かれていました。
ハイブリッドは、ロボットが生み出したものではなく、人間が生み出したものでした。
種としての寿命を迎えたことに気づいた科学者が、終末期の悲惨さを考え、新しい種を作り出す事により、人が希望を見失わない様にと、終末期の見苦しい争いをしないようにという工夫でした。
さらに、ハイブリッドから新たなる希望の種が生まれる事を期待しました。
それは、祈りにも似た気持ちでした。
しかし、それには多くの困難が伴ったようです。
炭素体が、別の元素を大量に取り込む事の困難が、まずひとつ。
せっかく取り込み優秀になった臓器や筋肉をコントロールする難しさが、またひとつと、次々と立ちふさがる難問を解決していく過程で、ハイブリッドの脳は、非合理的なものを受け入れる事を拒否し始めました。
長い寿命の人型ロボットもどきを作るのではなく、新たな種として生物を作り出す道は、とても険しかったようです。
画期的な新種の生物としてある程度成功をみたとき、不完全なままハイブリッドは公開されました。
人類の寿命の終末が、迫っていたので、余裕がなかったのです。
僕は、愕然としました。
僕たち
僕たちこそ、新しい種。
この地上の人類の地位の次を継ぐもの。
そう、思っていました。
しかし、ハイブリッドは、次の人類を生み出すための存在。
しかも肝心の繁殖をする前段階の対になる事が出来ない失敗作だと知りました。
対になる事が必要だと理解出来るのに、前段階の恋という非合理性を脳を構成しているシリコンが受け入れないのです。
僕たちハイブリッドは、強い精神力を持ちます。
どんな大きなショックにも、耐えられる事は良い事と限らないようです。
それは、時に悲しい事です。
泣きたいのに、泣けない僕。
僕の涙腺、こんな時には働け!
僕は、今まで知らなかったおじいさんの部屋にある奥のドアを開きました。
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