第2話 少年の季節

 僕は、B560。

 B群のハイブリッド。

 伝説の提唱者の後に生まれました。


 平和のための戦闘ロボットという矛盾を指摘した提唱者。

 提唱者以降生まれたハイブリッドをB群とされています。


 彼以前のいわゆるA群のハイブリッドは、生まれたばかりの新しい種だったので、多少のやり過ぎも仕方ないとおじいさんも言っていました。

 僕を育てた、おじいさんは、いわゆる人類の最終組のひとりです。


 おじいさんは、人間たちの医療の仕事をしていました。

 炭素体の肉体は脆く、その行動が矛盾だらけ。

 短い持ち時間中に、たくさんの病気と怪我をしたそうです。

 若き日のおじいさんはいつも忙しく、その時、既に亡くなっていたおばあさんとの時間は、あまり取れなかったと笑っていました。


 では、何故結婚したのか?

 僕の疑問に、おじいさんの答えは決まっていました。


「ゴロー、お前の知っているばあさんは、シワクチャでも、昔は可愛かったものさ。若い頃のじいちゃんの胸がキュンとなってさ、どうしても、ばあさんと一緒にいたかったのさ。あれが恋というものさ」


 おじいさんは、僕をゴローと呼びますが、僕の名前は、B560です。


 そして、恋。

 そうです。

 ハイブリッドの混乱の原因。

 現在、A群も僕たちB群も混乱期です。


「おじいさん。どうして僕たちは恋が出来ないの?」


「恋?出来ているじゃないか。混乱している事が、その証拠だ」


 おじいさんは、そう言いますが、ハイブリッドたちは、かつてこの地上に繁栄した人類の様に、対になる事が出来ないでいます。


「ゴロー。数年で、お前も恋をする季節を迎える。残念だが、じいちゃんは、それまで命が保たない。その時は、悩め。そして、悩んで、悩んで、それでもお前の心がどうしてもその娘を求めるなら、この老いぼれの机の引出しを開けろ」


 おじいさんは、数年前に亡くなり、僕は、幼馴染のB870に恋をしたらしいです。


 何故でしょう?

 昨日まで、あんなに仲良く、誰より自然体で居られて、何でも話し合えた存在なのに…。

 今、彼女の姿を見ると、胸がトキメキ、普通では、居られません。

 これは、心臓でしょうか?

 僕たちハイブリッドの心臓は、強力な炭素繊維で出来ていて、乱れる事など無いはずなのに。


 僕は、彼女と対に成りたいのに、どうしてよいか、分らないのです。

 そもそも、対とは何かが、分かりません。

 

 遠くから、彼女を見て、ため息をつきながら、彼女を失いたくないという強い気持ちが巻き起こります。

 矛盾する思考。

 確かに混乱の季節です。


 僕は、おじいさんの部屋に入り、そっと引き出しを開きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る