心伝図

@ramia294

第1話 ロボットの季節

 少子化問題は、進む。

 この国の人口の減少は、歯止めが効かず、お気楽な政治家の言う、異次元の対策は、異次元に飛んでいきました。

 ものづくりでしか生き残る道のないこの国。

 この国の国民が幼い時から夢見るスーパーロボットを作る事で、生き残る事にしました。

 あらゆる事が可能な万能の人型ロボット。

 増えていくロボット。

 減り続ける人口。

 いつしか、

 この国は、ロボットだらけ、

 人の姿は、すっかり見られなくなりました。


 賃金が発生しないロボットが作る高い品質と低価格の製品は、世界を席巻。

 この国の経済力は、再び世界を支配しました。


 しかし、この国で人の姿を見る事は稀で、残り人口は数百、数千と予想されました。

 この国の人々は絶滅危惧種レッドデータブックになりました。


 あらゆる事を満たす美しい姿をしたロボットをパートナーにしたこの国の人々は、いつからか家の外に出る事なく、その命の時間を過ごす事を始めました。


 この国の特徴は、いちど方向性が決まると、いけないと分かっていても止まらず、突き進む事でした。

 パートナーロボットは、急速な進化を遂げ、ロボットと人間の間に子供が出来るようになっていきました。


 お気楽政治家の異次元の対策は、今、異次元からこの国に帰還したのです。


 当初は、ロボットが読み取ったパートナーの遺伝子情報でクローンを組み立て、発生した胎児を凍結して、パートナーの命が終わると、クローンを解凍、成長させ、自らのマスターを作るという作業を行っていました。

   


 しかし、次第にロボット自身が作り出した遺伝情報との混合から生み出される生命に変わっていきました。


 理想ハイブリッド


 彼らは、そう呼ばれました。

 その身体は炭素だけでなく、多量の金属とシリコンで構成されています。

 疲れない強い肉体と、あらゆる知識が組み込まれた脳の持ち主でした。

 ハイブリッドの思考は、人間というよりもロボットに近いものでした。

 合理性を尊び、成長速度こそ人間並みでしたが、成人になれば全員が天才でした。

 寿命も人間の三倍を超えていました。


 この時点で、この国以外のあらゆる国の経済活動が疲弊し、世界は荒廃して行きました。


 人という種の寿命が近づいていたのです。


 荒廃した国の中には、植民地化やロボット技術の強奪など、この国へ理不尽な要求を突き付けてくる者もいました。


 核でこの国を恫喝する国へは、ハイブリッドたちが自衛と言う名目で戦闘用ロボットを送り込みました。

 殺戮マシーンは、その国の人間を根絶やしにしてしまい、以来この国に手を出そうとする人々はいなくなりました。

 ハイブリッドは非情。

 判断は冷酷。

 容赦の無い殺戮マシンである戦闘ロボットをさらに増産しました。


 核兵器を保有する全ての国へ、戦闘用ロボットを送り込む準備をしていた頃、ひとりのハイブリッドの中に、別の意識が目覚めました。


 戦争や核による恫喝をしていない国に対して、戦闘ロボットを送り込んではいけない。

 それは、核使用と同じ。


 今、ハイブリッドは、新たな段階へと進みました。


 冷酷な合理性からだけでない行動が、混乱を生み出しましたが、同時にハイブリッド同士の愛も生まれました。

 ここに、人間の遺伝子にロボットが作る情報を組み込み、初めて誕生するハイブリッドの時代は、終わりを告げると、ハイブリッド間が、恋愛、結婚、出産、子育てをしていく世の中になると誰もが予想しました。


 しかし、ハイブリッドは、恋愛に関しては、思春期の少年でした。

 戸惑うばかりの自分自身に混乱する理想体たち。

 夜空に月を見て、退化消失していたとされていた涙腺が復活。

 流す涙の意味を量子コンピューターで必死に調べもしました。


 恋に関する情報は、矛盾だらけ。

 理想ともいわれるハイブリッドたちが、混乱を極めました。


 恋愛論を語る紙の本を探し出す者。

 あらゆる文学が既に古典になったその時代に、紙の本は遺跡扱いで、貴重な資料の厳重な保管方法という立ちふさがる壁と紙から得られる情報量の少なさに頼る自身の非合理的な行動に、ますます混乱しました。

 

 捨てられた古いパソコンのデータを復元する者。

 ネット小説から恋愛キーワードを発掘するものは、数多く存在する異世界の謎に、混乱しながらも、ついに、マイナーなカテゴリーに存在する詩を発見しました。


 合理性に欠ける恋の詩の秘密を探る。


 それこそが、恋愛という混乱を引き起こしたこの時代を終わらせる決定打になると、理想体ハイブリッドたちは、予測しました。

 

 

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