第1話 上坂美月
教室に爽やかな春の風が吹いた。
"新学期"
それは少年にとって、とても憂鬱なものだった。
まず春休み開けの学校、というだけで気分は最悪だ。それに加えて、クラス替えや教科担任の先生が変わることで強制的に行われる自己紹介がある。
どうせ三年の付き合いなのだから、わざわざ興味のない人のことを知る必要なんてないだろう。
だが、学校はそう簡単にはいかない。三年の付き合いだからこそ仲良くしろ、だとか、大人になってから話せる友がいるのは大切だ、とか。
心底面倒くさい。
「影浦(かげうら)君だよね!?」
そんなことを考えていたら、早速きた。クラスカースト一軍の陽キャ女子。
新学期早々そんな大きな声を出されると頭に響く、辞めてくれ。
まあ、そんなこと言えるはずもないのだが。
「連絡先交換してもいい?」
そんなに目を輝かせるな。断りづらい。いや、まあ実際断りたいのだが、そうもいかない。
相手は学年トップの美女。そんな奴の頼みを断りでもしたら、これから一年間、俺はあらゆる人に煙たがられるだろう。だから、必然的に連絡先を交換しなくてはならないのだ。
まあ、大丈夫だ。これには慣れている。
どうせあと一年で高校生活も終わりだ。一旦今は交換しておき、高校を卒業したら消せばいい。完璧だ。
「…いいよ」
「やた!ありがと!」
彼女はそう言うと、キーホルダーやトレカでデコレーションされたスマホをポケットから取り出した。
「私、上坂美月(うえさかみつき)。一年間よろしくね!」
「よろしく…」
まったく、陽キャというものは理解できない。なぜ新学期からそこまで元気でいられるのだろうか。
俺には到底無理なことだ。
「あっ、じゃあ私他の人とも連絡先交換したいから、また後でね!ありがと!」
そういうと、彼女は早々に俺の前から離れていく。
これだから陽キャは嫌だ。
やっと憂鬱な新学期の一日目が終わり、帰る時間となった。まあ、無論一人で帰るのだが。別に一人で帰るのが嫌なわけじゃない。逆に誰にも気を使わずに自然を堪能しながら自分のペースで帰れるのだからいいものだ。
ふとスマホを見ると、通知が一件来ていた。
"SAIのことが知りたかったら、今日の夜十一時に星月公園に来て"
それは間違えなく上坂からのメッセージだった。なぜ上坂がSAIのことを知っているのか。そして知っているとしたなら、敵なのか味方なのか。
確かめる必要がある。
その日、影浦はメッセージにあった十一時に星月公園へ来た。
「来たね」
街灯に背中をつけ、足を組みながら言う。
「ああ、ひとつ聞いていいか?」
「いいよ」
「お前誰?」
「上坂だよバカ」
そういった上坂は、巻いていた髪の毛は肩にギリギリ着くかつかないかの長さでストレートにおろし、学校の時には付けていたネックレスや指輪、イヤリングも外し、服は紺色の長いセーターを羽織る、といういつもの様子からは想像出来ない外見をしていた。
「何でだよ、お前いつもザ・陽キャって感じの見た目してんじゃん」
「あれは表向きの顔。いつもはこうだよ」
ハイヒールの音をコツコツと鳴らしながらこちらへ近づいてきた。
「そんなことより、影浦君、君はSAIのことが知りたくてここに来たんだろう?」
「ああ、そうだよ」
すると影浦は上坂に向けて手を挙げた。その手からは、バチバチと電気が出ている。
「やっぱり、思った通りだ。君、異能力者だろ」
影浦は生まれつき異能力を持っていた。家族も全員だ。
特に妹の能力は凄まじいもので、影浦はもちろん、両親の強さをも超えるものだった。
「そうだよ、正直に言え。お前は敵か、味方か。答えによっては今ここでお前を消す」
「随分と殺気立っているね。でも安心しなよ、私は君の敵じゃない」
そう言うと、上坂は影浦に背中を向けた。
「場所を帰えよう。教えてあげるよ、SAIのこと」
弱虫な異能力者 @motizuki_sugu
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