第二話 神は侮った

 

◇◇◇


 入学前までのことやら入学式のことやらと、いろいろあったのかもしれないけども、今はちょっとそれどころじゃなかった。

 今そこらへんの記憶を思い出せるかも怪しいけども、そもそも思い出そうとも思わなかった。


 だって次だもん。

 あちしの自己紹介の番がもうそこまで来てるんだもん。


「部活は文化系で考えていますが、具体的にはまだ決めてません。明日の部活紹介が楽しみです」


 前の席の確かメガネかけてた女の子が溌剌と喋っている。

 名前はもう忘れた。今度ちゃんと覚えますから。


 頭の中で何度目かとなる台本の反芻をする。


 まず名前を言って、友達が欲しいみたいなことを適当にいい感じに言って、これからよろしくお願いしますってのは絶対マストで、絶対にアドリブでなんかウケ狙ったりしないで、それで、それで。


 あ、部活の話も貰っとこうその案。

 あと趣味……はアニメとか漫画とかだからやめとくか。んじゃどうしよう読書が無難か、うん。


「これから三年間よろしくお願いします」


 よし、最初は……なんだっけ。ちがうちがうちがう大丈夫大丈夫。

 なんだっけ、うんわかるわかる。大丈夫。


 パチパチパチと拍手の音に反応し、俯いたまま私も合わせて手を叩く。

 ペシペシ情けない感触があるだけで音は一切鳴らなかった。


 なのに頭の中は真っ白に染め上げやがった。

 拍手にすらなってなかったクセにクソかよぉ。あぁなんか頭もちょっと痛いしぃ。ぷぎゃぁ。


「はい、ありがとうございました。これからよろしくお願いしますね。では、次の方、お願いします」


 来た。

 番が来たら立つ。おけ。はい立ちました。おけ。


 ずっと俯いていた視線を上げクラスをスッと見回した。

 クラスメイトの顔は認識できなかったけど、多くの視線が私を見ていることは認識することができた。


 その事実が私の頭にさらなる混乱を招き、緊張で首は熱く、喉が縊られたようにキュッと締まった。

 唾を飲み込み、しかし幾度の反芻による甲斐と、直前の担任先生の促しにより、私の口は発声を始めてくれた。


「神です。その……よろしく」


 それだけ言って、いや、いま声でてた?

 ちゃんと声が出てたかすら不明だけど、とりあえず自分の番を終えて椅子に座ることができた。


 いや座ることができたじゃないねん。

 席立った後の目標が自己紹介することじゃなく、無意識のうちに一刻も早く座ることになっていた。


「あっ、え? もう大丈夫ですか? 他に言いたいこととか……」


 机をじっと見つめながら、コクリと一度うなずいて先生への返事を示した。

 膝の上に置いた手は、ギュッと強張りスカートを握る。


「そ、そうですか。では次の方お願いします……」


 戸惑いつつも次の自己紹介を促す声と、後ろの席から聞こえる椅子を引いた声で、ようやく自分の番の終わりを実感し一息つくことができた。


 ……うん。

 まぁ、あれだ。つまりは、だ。


 私の自己紹介はなんか普通に失敗に終わったっぽい。

 

 私メチャクソにあがり症でコミュ障だったみたいです。

 くそかよぉ……ぴえん。

 ぴえんじゃねぇよ私死ね!


◆◆◆

 

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