神はケモノに×される
あおうま
第一章 ながすぎるアバン
第一話 神はいかに
◆◆◆
まずはじめに、わたしの苗字は神である。
なんともまあ厳かというか仰々しいというか、そこそこに目立った苗字であるわけで。読みが『じん』ならまだありふれているのに、そのままストレートに読むんだもん。
自己紹介の場で、神って苗字の人が「かみです」なんて言い始めたら、そりゃまぁちょっとは目立ったりするだろう。
私が大した特徴もない平々凡々な女の子だったのなら、ネタにして仲良しともだち作りのきっかけには利用できたのかもだけど。
残念ながら苗字の珍しさに負けないぐらいには、私は稀有な容姿を持ってして、この世界に生まれてきてしまったのである。
有体に言えば私の顔面の造形はメタクソに整いすぎていた。めちゃくそ可愛いらしい。私の顔面。
ゆうて15年も鏡で見続ければ、慣れと飽きにより自分の顔面になんざ何も思わなくなるし。そもそもこの顔のせいで、まともな学生生活や友人なんてものにも疎遠の人生だったのだ。
百害あって一利もなかった。タバコの方が吸ってる姿がカッコ良く見える分、まだマシだとさえ思える。
ナンパに抵抗がない男どもには小学生のガキながらも声をかけられまくり、一町に一人現れたら話題になるような不審者は挙って目の前に現れた。
モラルのない誰かが私の写真をSNSにアップしたせいで。
マスコミ関係者なんかはまだマシだったけど、中学生にもなってない少女に執着しやがるロリコン共さえ、自宅マンションの近くをウロツきはじめる始末だった。
警察の方々に何度お世話になったか、ガチで数えられないくらいだから大変なんてもんじゃない。
中学生になる直前あたりで母親の危機感のハードルを越えたのか、私は家から一切の外出を禁止され、その身を堅牢に守られることとあいなった。
母は日本で最たる売上を誇る美容品会社の営業部長で、バリバリのキャリアウーマンとして、そらまぁ忙しい生活を送っていた。
私が物心つく前からシングルマザーとして、私に不自由ない暮らしをさせるためにも一生懸命に働いてくれていたのだけど。
そんな多忙な中で私を確実に守れることなどできることもなく、母娘同意の上で私の隠居生活が決定したのである。
私としても、母が楽しくやりがい持ってしていた仕事に迷惑をかけるのに辟易とし出していたし、家の外の世界にも嫌気が差していたから一片の不満もなかった。
しかし私もまだ若く、マンガやゲームやアニメやドラマ、世のサブカルチャーには学園ものが溢れていた。
ひとり孤独に家で勉強を重ね、娯楽としてそんなサブカルチャーに手を伸ばしていれば、そりゃ普通の学園生活というものに憧れを抱いてしまうのも致しかたなかったのだろう。
そもそも小学生の頃には友達一人いなかった。
容姿をからかわれることさえなく、終業後の銀行窓口レベルの事務的な話しか、同世代の子たちと話したことがなかった。例えとして思い浮かんだけど、実際の終業後の銀行窓口の賑やかさなんて知らんけど。
兎にも角にも中学3年生になる時分、私はよーけ考えた。どうすりゃ普通の高校生活を送ることができるんじゃろうと。
よりにもよって学園モノのサブカルなんかはその多くが高校生活が舞台なもんだから、高校生としての学生生活に対しての渇望がとんでもなく大きかった。
なんだかんだ子煩悩な優しいお母様との相談と調査の上、何とかかんとか私たちは最適解を見つけ出したのである。
その答えこそがいま私の立つこの場所、全寮制の女子校となる『百合花女学園』なのである。
◇◇◇
まず私は女の子がめっぽう好きである。特に可愛い女の子がめっちゃ好きやねん。
男に追いかけ回されてたからという自分の生い立ちもちょっとは関係しているかもしれないけれど、多分そういうのあんま関係なく元々普通に美少女が好きだ。
面倒かけてきやがった男どもはくたばれと思うけど、男性そのものを憎んでいるわけでは決してなく。誠実でまともなリアル男性や、カッコいい男キャラだってたくさん存在していることぐらいは理解しているつもりだ。
性差別になりそうな思想への罪悪感払拭のための弁解はこれくらいにして、女の子の素晴らしさに思考を戻すとして、やっぱり可愛い女の子が最高なんだこれ。
アイドルものとか日常系のアニメはやっぱりハマっちゃうし、百合系の漫画なんか一生読んでたい。良い作品に出会った日の夜なんかは、布団の中での妄想が捗りまくったものである。
登場した推しキャラ同士の架空の絡み妄想みたいな、誰しもやってるちょいキモい世界を頭の中で考え続けた私にとって、リアル女子校なんつー夢の国に憧れないはずがなかった。
ストーキングしてくる男もいない。
さらには3年ぶりにリアル女の子に囲まれて、果ては人生初のお友達まで作ることができるかもしれない。
リアルギャルゲーかよ、最高じゃねぇかとブチ上がったのも当然のことでしょうが。
だってもう三年くらいママンとしか会話したことなかったんだもん。しゃあないじゃん。ぱおん。
まぁ入学前のちょっとした懸念として、クラスメイトに推しつくって勝手に妄想しちゃうだなんて。そんな周りの女の子たちにバレたら距離を置かれるようなキショいムーブかましそうだなぁなんて思ったりもしたけども。
それすらも幸せなベクトルの狸の皮算用だろう。
そんなこんなでボッチと百合オタ拗らせつつも、過去一番の努力と妄想を重ねて。
無事に合格を掴み取った私は、念願叶って百合花女学園への入学を果たしたのだった。
◇◇◇
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