第3話 視聴者さんは私がトラウマらしい?
「信じてもらえるかどうかはわからないですけど……」
前置きをして、今の私の状況を説明した。
ついさっき前世の記憶を思い出したこと。
ステータスを開いたら何故か、Liveボタンがあったので押してみたこと。
そして、コメントの反応は、
『なるほど』
『それな』
『ふむ、つまり』
『VWOのアリスちゃんのなりきり放送ということですね』
いや、そもそも、そのVWOとやらもわからないんだけど?
私の名前はたしかにアリスだけど。
『斬新な設定の配信ですね』
『VWOだからこそできる』
『そこでアリスちゃんというチョイスがまた良い』
うん、設定だと思われた。まぁ、そうなるよね。
しょうがない、配信者がいきなりそんなこと言い出したら、そういう設定としか思えないよね。
「まぁ、設定と思われるのも仕方ないとは思うのでとりあえず、私はそんな感じですね。それで、色々と聞いても良いですか?」
『なんぞ?』
『なんじゃろ?』
まずは……
「VWOってなんです?」
私の質問に、
『アリスちゃんの姿しといてそれはないwww』
『いや、待ってセンスがwww』
『転生プレイ、ここに極まったwww』
めちゃくちゃ笑われた。解せぬ。
しかし、笑ったあとは、私の疑問に答えてくれた。
『VWOはバーチャルワンダーランドオンラインの略称で1年前くらいにリリースされて、今も人気のVRMMOだね』
『ちなみに、この放送もその中から見てる』
なるほど、つまり、やっぱりここはゲームの中ってことかな?
『ついでに言っておくと、そのアバターは最初の街のNPCで錬金術師のアリスちゃんな』
『そうそう、悲劇の少女な』
『あれは可哀想だった』
うん? なんか不穏な感じ?
「えっと、確かに私の名前はアリスですが、悲劇の少女?」
『そう悲劇の少女、またはVWOプレイヤーのトラウマ』
トラウマ? さらにワードが増えた。
「えっと、そのゲームのアリスちゃん? はどうしてそんな呼ばれ方をしているんですか?」
『……』
『そう、アリスちゃんはな』
『VWO開始3週間、最初のイベントで』
『死んでしまったんだ』
見習い錬金術師アリス。
VWOプレイヤーにえげつないトラウマを植え付けた少女である。
そもそも、このVWOというゲーム、VRMMOであると同時に、高度なAIが積まれた最新鋭のゲームである。
そのAIはほとんど人間のする反応と変わらず、中に人がいると言われても信じられるくらいだった。
そんな中でも一際、人気を博したキャラがいた。
それが見習い錬金術師アリスである。
アリスはプレイヤーが降り立つ最初の街で錬金術のお店を経営しており、来店するキャラクターに笑顔で話しかける姿で人気があった。
どうやら、プレイヤーの同年代で同時期に祝福を受けた設定らしく、親しげに話しかけてくる姿に心打たれる人が続出したという話らしい。
しかし、悲劇は起こる。
VWO最初の大規模イベント、それは最初の街に魔物が沢山押し寄せる中、街を守りきるというイベントだった。
最初のイベントだし、余裕余裕というプレイヤー達、最初はその通りに、雑魚敵を順調に討伐できていたのだが、そこに、ボスが現れる。
現れたのは魔王四天王の一人にしてネクロマンサー。
ネクロマンサーのボスは討伐したはずのモンスターを復活させ、強化させて、さらに攻め込んできた。
プレイヤーたちも続々と死に戻る中、一人の少女が現れる。
それが、アリスだった。アリスは自分で作ったポーションを手に戦場にかけつけたのだ。
そんな助けもあっておかげか、なんとか戦線は持ち直し、強化された敵を討伐することに成功した。
しかし、四天王は笑って魔法を発動してそのまま逃げる。
四天王的にはお遊びのつもりだったらしい。
運営的には四天王のちら見せという感じで、直接手を出さず、最後に範囲攻撃だけばらまいて帰るという予定だったと後から話された。
範囲攻撃の魔法、プレイヤーには着弾位置が見えるため避けるのは簡単だった。
しかし、戦場にいたNPCアリスにはそれを回避することは難しく。
結果、アリスはそこで命を落とすのだった。
そうして、見習い錬金術師アリスの名はVWOのトラウマとして皆の心に刻まれることになったのだった。
という話を視聴者さんが語ってくれた。
なるほど、それは
「とんでもなく荒れそう……」
『せやな』
『運営にめっちゃ抗議した記憶が蘇る』
『あれでやめた友人もいる』
そりゃそうだよね……、まさかのNPC死亡それも、仲の良かった可愛い女の子キャラを死なせるとか……
「それどうにか復活とかできなかったの? ゲームでしょ?」
『もちろん、プレイヤーだって運営に抗議した』
『でも、運営は復活させるつもりはないと言い切った』
「うわぁ、それは酷いね、最初から死なせるためにキャラ用意したもんじゃない?」
VWOがどんなゲームかはわからないけど、運営が酷そうなのはわかった。
『いや、それは違うらしい』
うん?
『あまりに皆の荒れように運営が第一回イベントの仕様を話したんだ』
NPCの行動は基本的に高度なAIが管理しているというのが大前提としてある。その上で、
・アリスはそもそも戦場に出てくる予定はないキャラだった
・アリスはプレイヤーのあまりの死に戻りの多さに自分がなんとか役に立てないかと戦場に向かったこと
・範囲攻撃の場所はランダムでアリス狙いではなかった、また攻撃もプレイヤーなら簡単に避けられる仕様だったこと
・高度なAIがNPC管理している以上安易な復活はできない
『どこまで本当かどうかわからないけど、そういう仕様だったらしい』
『高度なAIがプレイヤーを心配して戦場に向かわせたらしい』
『そもそも、プレイヤー達があの範囲攻撃を全員避けてる時点で、なんで助けなかったという話』
『いろいろな悲劇が重なった上で起こった事故だったという話らしい』
『運営としても、看板にするくらいには人気のキャラが死んだのは想定外の事態とのこと』
「それはなんとまぁ……」
自分たちを助けに来てくれたのに、その少女自体を助けることは誰もせず、結果的に死んでしまった……
なんだろう、読む物語としてはありかもしれないけど、自分が主人公の立場だったら辛すぎるね。
「皆よくやめなかったね」
『まぁな、実際やめた人もいるし』
『でも、あのイベントのお陰で、今までのVRMMOっていう概念がひっくり返ったわ』
『NPCをちゃんと人として扱うようになったよな』
『ゲーム自体のクオリティも高いしな』
どうやらやめた人もいるけど、残った人のほうが多いらしい。
その理由として、
『運営もあまりのアリスの愛されっぷりに助け舟を出したんだ』
『曰く、そのうちアリスを軸にした企画を立ち上げるとのこと』
『その企画によっては、アリス復活もあり得るらしい』
「へぇ、流石に運営もそこまで鬼じゃなかったってことね」
『ぶっちゃけ、この放送がそうなのかと思って見に来たところある』
えっ?
『あ、俺も』
『サムネのアリスちゃんのクオリティ高すぎてなぁ』
『むしろ違うほうがびっくりだわwww』
「えー……」
そんな反応された私の方がびっくりだよ……
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