王都での歓迎 2




 王都に戻った翌日から──


 わたし談「とんでもない日々」。

 スーリアン&ズースー談「誠に晴れがましい日々」がはじまった。


 正式に、わたし付きの侍女という身分になったスーリアンとズースー。


「シャオロンさま、こちらの儒君じゅくん。色白のシャオロンさまに、似合う桜桃色で……、まことに、お美しいことにございます」

「いえ、きめ細かなお肌には、やはり緋色、赤系でございますよ。派手な装いで、皆さまを圧倒いたしましょう」

「スー! ズー! 桜桃色も、緋色も着ない。そんな正装はしない」


 すでに既視感を覚えるほど、同じような会話を三人で何度も繰り返した。


 王都に戻ったわたしを待ち受けていたのは、盛大な祭典の日々。驚天動地の異様な式典の数々だった。


 題して、『聖なるシャオロン群主ぐんしゅ凱旋記念』の式典とか。『南煌ナンフォアン王国に降臨した天女』の式典とか。『白龍神の選ばれた処女並びに美の群主であり皇女』の祭典とか……。


 南煌ナンフォアン王国全体が、盛大なお祭り騒ぎにわいた。

 渦中のわたしだけが、置いてきぼりにされ、わたしではない偶像が世間を席巻する。


 わたしを描いた絵姿は飛ぶように売れ。

 布とか陶器で作られたシャオちゃん人形は、ウーシャン皇子のそれをはるかに凌ぐ売り上げを誇り、はては転売屋までも潤した。


 さらに、わたしが触れた品が、王宮のふとどき者によって、こっそり密売され、聖なる秘物になるなんて、冗談を通り越している。


 もちろん、発覚すれば重罪なのだが、いくら官吏が取り締まっても、イタチごっこは収まらない。


 さらに、わたしを呆れさせたのは、貧民窟で育った事実が判明すると、親を名乗る輩さえも各地に出没したことだ。彼らは儀式の機密性を悪利用していた。


『聖なる群主シャオロン姫』が育った『貧民窟への冒険の旅:危険は自己責任で』が、ちまたで流行っているらしい。結果、貧民窟が潤うという別の意味で謎展開。


 まさに、狂気乱舞の日々。

 使命に燃えたスーリアンとズースーが侍女団を率いて、ここぞとばかりにわたしを飾りつけるから、はた迷惑この上ない。


「なぜ、こんなことに」

「シャオロンさまの功績を考えれば、まだまだ足りません」

「いや、足りてる。足りすぎてる。もう十分だ」


 ヘンスのやつは、あの日以来、またどこかに姿を消した。まさか、かってに貧民窟に戻ったんだろうか。


 十日ほど、そんな日々が続いたのち、ようよう周囲は正常に戻り、朝廷も機能しはじめたようだ。


 わたしは王宮に部屋を与えられたが、そこから逃げることも不可能になった。どこへ行っても、人びとに追っかけられる。

 うっかり外へ出ようものなら、大勢の民に囲まれ大騒ぎになった。


 そんなある日、わたしは祝いの席以外で、はじめて朝廷に呼ばれた。


「シャオロンさま、今日は朝廷にご出席くださいとのことにございます」

「なんで」

「存じ上げませんが、ウーシャンさまから、大切な議題があるとのお言付けにございます」


 ウーシャンは十日前から顔を見ることが極めて稀になった。王に代わって政務を任されている彼は超多忙だ。儀式のあいだ、わたしに付き添っていたのは理由があった。

 食事に毒が入るなど、あらゆる妨害処置から、わたしを守るためだったという。


「ウーシャンが呼んでいる?」

「さようにございます」

「逃げてもいいだろうか」

「いえ、これは、シャオロンさま。あの時のようには参りません」


 スーリアンがいう、あの時とは、王宮からまっすぐに伸びる沿道を輿に乗って行列した時のことだ。

 沿道を埋めつくす熱狂した民、民、民。


 頬が引きつってしまい、そのまま台座に伏せったことにより、一時的に行列が中断された。

 わたしは、伏せったまま冠を取り、重すぎる衣装から抜け出し内衣になった。みな驚き、困惑しているのを感じた。

 喝采するか、非難するか、その分かれ道に、先導する馬に乗っていたウーシャンが駆けつけた。


「ここで裸になるおつもりか」

「重すぎる。頭の冠も、衣装も」


 ふうっとため息をついた彼は、その一方でにやりと笑った。


「困った人だ。スーリアン」

「は!」

「別の楽な衣装に着替えさせよ」

「は!」


 なぜ、スーリアンが別の外衣を持っていたのか。それも軽くて薄い外衣を、さっと取り出して、すかさずわたしの衣装を整えるなんて神技を、なぜできたのか。


 その上で、わたしの右手を挙げると、「シャオロンさま。口角をあげてください」と要望した。


 あまりの素早さに唖然としながら、言われるままにほほ笑んだ。


 大きな歓声があがる。

 なんというか、やってられない。

 きっと、見ている人びとは、衣装を変化させて楽しませる余興かなにかだと思ったのだろう。


 まあ、きつく重い衣装が脱げ、楽になったので、わたしは許すことにして。残りの行列を、なんとかやり遂げたけど。



(つづく)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る