第三の儀式前、それぞれの策略 2




「おやおやおや、ウーシャンや。そなたがいたとは。お邪魔してしまいましたかな」


 でっぷりと腹がでたジャオンイー王弟。知ってて、とぼけたいようだ。

 

 気に入らないけど。

 こいつはウーシャンの敵、そして、敵の敵は味方って路線でいけば、わたしはジャオンイー王弟を応援すべきだ。


 それに、この男の魂胆はわかっている。

 わたしが優勝することを避けたいのだ。もし、優勝すれば、次王はウーシャンに決定されるだろう。

 臣下たちから得た甘い果実をたっぷりと食しながら、この十二年、王権を狙ってきた彼にとっては悩ましい問題だ。


 最下位、最悪、二位であれば、時をみて政変を起こそうと目論んでいる。


「こんな時間に、まさか、第三皇子にお会いするとは思いませんでしたな」

「それは、同じ言葉をお返ししたい」


 御簾みす越しに、ふたりの攻防を見ながら、わたしは両手でこぶしを作って王弟を応援した。

 さあ、とっとと年の甲でウーシャンを追い出せ。

 最下位になったわたしは王弟にとって最高の存在だろう。


「叔父上、どういうご用件で参られたのですか」

「ウーシャンよ。今回は一・五点だったようだな。いやな、十二年前の不幸な儀式を思い出してな。シャオロン群主は、あまりご存知ないようだから、わしからも一言応援をしたいと思うておる」


 ウーシャンは貫禄という点では見劣りするが、それでも、一歩も引く気配はないようだ。


 わたしはベッドで縮こまるフリをした。

 王弟がウーシャンを追っ払ってくれると期待していたが、当てが外れそう。


「困りましたな」

「そうですね」


 そこ、どうしてふたりが納得しているんだ。

 ふたりが困っている以上に、わたしが困っている。あんたたち敵同士なら、しっかり仕事しろよって問い詰めたい気持ちになる。


「次回の儀式、なにか策はおありかな。わが国の敗北が決まれば、民にとっての不幸は計り知れない。あなたの地位も脅かされそうで、ワシとしては非常に苦慮しておるが」

「ご心配いりません。彼女は勝ちます」


 ウ、ウーシャン! どんな根拠で確約をしてるんだ。


「ほおお、そなた。今回の結果では進退問題にも及ぶぞ」

「ご心配には及びません、次回は勝つ予定です。二位でも、水の配分としては十分です。贅沢な量というわけにはいけませんが過不足ない量で、民も納得できるでしょう」

「ほおお」


 勝利?

 誰が勝つって?

 わたしか? わたしのことか。

 最低でも二位を約束したのか。


 おいおいおいおい……。


「そのための秘策を検討中です。叔父上に責任の一端を担っていただくつもりは毛頭ありませんので。ここはお任せください」


 ウーシャン、まさかの反撃。

 叔父、「そうか、そうか。それは、お手並み拝見ですな」って、早々に引き下がろうとしている。

 いや、あきらかに言質をとって喜んでいる。


 ウーシャンよ。甘い、甘すぎるぞ。


 こんな贅沢世界に生きてるからだ。ジャオンイーおっさんの喉笛に喰らいつく覚悟でやるべきだ。そんなでは勝てないぞ。


 てか、なんでウーシャンに肩入れしてる。アホか、わたしは。


 王弟は寝室から追い払われ、わたしは絶望して寝台に突っ伏した。


「では、シャオロン。次の儀式で勝つ方策を考えましょう」

「たとえばだけど、全員が引き分けになった場合、どうなるの?」

「その場合、さらなる対戦ですが。今の数字では全員が引き分けるケースはありません。次の儀式で、あなたが一位、メイリーンが二位になった場合だけ同点一位となりますが」

「その場合はどうなるの?」

「おふたりの更なる対戦です。どちらかが降参するまで戦闘は続きます。その上……」


 次の対戦はムーチェンに有利らしい。そういう意味では、一回目は知能の戦いでメイリーンに有利だった。

 とすれば、二回目はわたしに有利だったのか?


「あああああ」

「どうしたんですか」

「気がついたのよ。やっぱりムーチェンを大蜘蛛に食べさせておけば良かったと」


 ウーシャンは何も言わなかった。

 

「過去は過去です。今はムーチェンと組むしかありません。メイリーンと組んでも、一位を取れる可能性は低い。メイリーンと同率一位となった場、戦闘不能になっている者の負けとされます」

「逆にメイリーンはわたしを倒せば、最低でも二位になれるから、無駄にムーチェンとは戦わないと思う。ふたりでかかって来られたら、まったく勝ち目はない」

「ふたりの共闘だけは避けなければなりません。あなたは、ムーチェンと協力できないのですか?」

「次の儀式は、あきらかにムーチェンが有利で勝つ自信がありそうだ。侮っているわたしを潰して、その後、メイリーンと勝敗を決めようとするかもしれない」


 ウーシャンが額を寄せている。その顔……。

 そのとき、天啓のようにひらめいた。


 美しい顔を曇らせたウーシャンは、本当に魅力的だったのだ。なんという男の色気に溢れているのだろう。

 スーリアンにとって年下の男であり、ズースーには年上だけど、ふたりが思慕の情を募らせるのもわかる。


 あ……、そうか、そうだ! その手があった。


「今、気づいた。ひとつだけ有効な手段があると思う。メイリーンとムーチェンを共闘させない手がひとつだけある」


 この世のものとは思えない、ウーシャンの中世的な美貌をまじまじと観察した。この男、使える。


「どんな手段ですか」

「明日、わたしと一緒にムーチェンのもとへ行ってほしい」

「どうしてでしょうか」

「この国のため、皇子としての責任を果たしてほしい」

「???」

「ちょっと、その美貌でムーチェンに言い寄って、わたしと共闘するって確約させる。ウーシャン、誘惑するくらい、なんてことないじゃないか」


 出会って以来、はじめてウーシャンの顔に動揺が走った。

 いや、これは、むっちゃ楽しい。


「な、なにを」

「気づいていなかった? あんたを見る、メイリーンとかムーチェンの視線。わたしは気づいてたわよ。ね、スーリアン」

「お、おそれ、畏れ多いことに、ご、ございますが……。誠に、失礼千万にございますが、そ、それを、否定することができないで、なくて、ない、ないのでございます。で、殿下。どうぞ不敬なわたくしを処刑してくださいまし」

「ほら!」

「ぜったいに、ないぞ!」


 翌日、わたしたちは美しく着飾った嫌がるウーシャンとともに、ムーチェンを訪問することになった。



(つづく)

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