第4章 策謀と魔物との戦い

生き残りゲーム:森のサバイバル対決 1




 わたしは第二の儀式に参加することにした。逃げられなかったのだ。大事なことなので、もう一回、言っておきたい。……逃げられなかったからだ。

 けっして奴らの話に感銘を受けたわけじゃない、って思う。

 たぶん……。


 まっ、考えうるありとあらゆる方法で、逃げようとは努力したけど。本当に逃げたいのか自分でもわからないのも事実なんだけど。


 ああ、もう、しんどい。

 こんなふうにウジウジするって、なんか疲れる。


 無駄に一日が過ぎ、無駄に儀式の日になってしまった。


 早朝、スーリアンの手伝いで動きやすい衣装に着替えた。


 前よりも難易度があがるとか。

 負ければ国の水配分に反映されるとか。

 それが王家の義務とか。

 なにより、生きて戻る者が少ないとも王弟は言っていた。


 あのね、そもそも、王家の血筋だったら吸える甘い汁、まったくなかったから。なんなら、貧民窟ひんみんくつのなかでも最下層の生活だった。


「もしかして、ヘンスはわざとそういう生活を選んだというわけ」

「それが兄の選んだ道です。筆舌に尽くしがたい犠牲だったと思います。昔は、おおらかでよく笑う人でしたが、儀式の日から笑顔が消えました。ずっと耐えているのです」


 そう言ったウーシャンの顔にも、懊悩おうのうがにじんでいた。


 あの、ヘンスが耐えていた?

 額に黒い布を巻いた焚き火にゆれる彼の顔が浮かぶ。目を細め、なにを考えているのかわからない表情で、時々、まきを足していた孤独で痩せたヘンス。


 あいつが、わたしを王都から連れ出した。もしかしたら、救ってくれたのかもしれない。

 むしょうに彼に会いたい。会って、こんなに頑張っていると教えてやりたい。


「儀式がはじまります」


 ウーシャンとスーリアンが緊張した面持ちで待っている。


「よし! 行こう」


 儀式場へ向かう途中で、ウーシャンが現状を説明をしている。


 前回で一位を取ったメイリーンには、五点が与えられた。


 今回も一位を取られたら、そこで十点。もう挽回できる術はない。

 もしそうなったら覆す方法は、二回目は最低でも二位を維持して、三回目に一位になり、しかもメイリーンを最下位にするしかない。

 ほぼ不可能だろう。

 今回、メイリーンを最下位にするか、少なくとも二位に落とせば、まだ勝てる可能性が高くなる。


「次が、どういう設定舞台になるかわかりませんが、まずは、メイリーンの一位を阻むことです」と、ウーシャンも言っている。


 優勝が五点。

 二位が三点。

 三位が〇点。


 卑怯な手でもなんでも、貧民窟育ちにとってはどうでもいい。

 勝てばいい。

 いっそ清々しく心に宣言しておこうって思う。


 なんだか、いつの間にか儀式路線に乗せられ、必死に走らされている気分だ。いや、幼いころ、命を助けられた瞬間から、わたしは、このために育てられたのかもしれない。


 ヘンス!

 覚えておけ。今度会ったときは、ぜったい殺してやる! だから、それまで生きてろよ。

 

「さあ、行こう」


 言葉が心を引き締めた。いい感じだ、身体に熱がこもっている。


 集合場所に向かうと、前回と同じで武器庫に連れられ、好きな武器をふたつ選ぶように言われた。

 わたしが得意な武器は弓だ。


 ふたつ目の武器としては剣を手にとった。わりと小ぶりで使いやすく手に馴染むものを選んでいるとき、ムーチェンが話しかけてきた。


 彼女が近くに来ると威圧感がある。まるで巨人と話しているようだ。


「剣の良し悪しがわかるか」

「短刀のほうが得意だけど」

「そうか。大事なのは、折れない刀身を選ぶことだ。身体に合わせて、あまり大型のものは止めておけ」

「あ、ありがと」


 話しの途中で、ムーチェンが壁の片隅にわたしを押し込んだ。


「なあ、あんた。わたしと共闘しないか?」

「共闘?」

「今回、あいつを」と言って、斜め後方で武器を選んでいるメイリーンを顎でしゃくった。

「どうしても、あの女を最下位にしなければ、われらの勝ち目はない」


 ムーチェンが一位になるためには、彼女を一度はぜったいに最下位に落とすしかない。それは願ってもない提案だ。


「いいわ。共闘しよう」


 大柄な身体をゆさゆさ揺らして、彼女はわたしの肩をバンって叩いた。


「イッタ!」

「おお、手加減したんだがな」

「あんた、部下にきっと嫌がられてるぞ」

「いや、みんなに慕われている」


 わたしは唇を真一文字にして、大きく目を見開き、くるくると回転させることで気持ちを表した。

 ムーチェンは豪快に笑った。


「おまえ、かわいい奴だな」


 わたしたちの様子をメイリーンが、チラチラと見ていた。




 武器選びが終わり、また例の場所に案内される。瑞泉ずいせん山の前だ。


 風が強くなった。晴天が多いと思ったが、今は雲が太陽にかかり、強風が木々を揺らしている。


「お付きの方がたは、ここまでに」


 人形のような女官は、前と同じように言った。

 今回こそは、最初のヒントとか、間違えないようにしたい。


 フー王国のムーチェンはメイリーンを横目で見て牽制している。最下位になったことで、兵士としての誇りが傷ついたのだろう。


 メイリーンは相変わらず無表情だ。


「今回の儀式は対戦でありゃんす。お山の頂上に設置されたメダルにお触れになってください。メダル中央に宝珠が仕込まれており、宝珠は最初に触れた方の国の色を宿します。金色のメダルが一位、二位は銀色。三位にメダルはありません。金と銀のメダルに同時に触れた場合は先に触れたメダルの色が変化しますので、ご注意くだしゃっせ。最初に金色のメダルを取った方が優勝となります。それでは」


 それぞれの国には、国の色が定められている。


 南煌ナンフォアン王国は白色。

 フー王国は赤色。

 北栄ベイロン王国は黄色。


 つまり、わたしは金色のメダルの宝珠を白に染めればいいのだ。簡単なんだろうか?


 女官がはじまりの時を告げた。



(つづく)

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