美しい天上の王国と冷たい皇子 5
数日の間、移動できる場所は自分の部屋と浴室と庭だけになった。
これは軟禁?
そう思わずにはいられない状況だけど、その気になれば抜け出すなんて訳ない。
侍女たちは最初こそ怯えた様子だったが、親しく話すうちに打ち解けていった。
ま、これは奥の手なんだけど。
わたしは黙っていると冷たく見えるが、顔をくしゃくしゃにして愛嬌を見せれば、その意外性からか、警戒心を解く人が多い。
特に侍女たちは素直で、すれっからしたところが全くないから簡単だった。
「
「怖いってもんじゃないよ。こうね、エイヤって顔してないと大変なんだ。顔を傷つけてでも
顔も身体も傷だらけだった。どんな過去なら、あれほど傷を受けるだろうか。そう思うと悲しくなった。
ヘンス、今も飲んだくれているんだろうか。
「お可哀想に、シャオロンさま。とってもお美しいのに」
「チッチッチッ。ズースーよ、『さま』じゃなくてぇ?」
「シャオロン」
「そうそう。抱っこしたげる」
「キャー。おたわむれを」
侍女たちと騒ぎながら、心の底はシンと冷めている。
ヘンスは言っていた。
『やられる前にやれ! 誰も褒めてくれん。優しさなどバカにされるのがオチだ』
侍女ふたりは優しさに満ち、庭木に集まる鳥にさえも感動して餌を与える。
優しさとは贅沢品なのかもしれない。
「王都は雲の上に浮かんでいるんです」
ふたりの侍女は素直に言う。山上ではなく宙に浮かんでいると信じているようだ。
「浮かんでいる。どうやって?」
「ええ〜〜っと。だから浮かんでいるんです」
「本を読めるでしょう。文字も読めるんでしょう? それなのに知らないの?」
「学校では習わないんです」
学校という制度は興味深い。
そこで、この世界の仕組みや文字を教えてもらう。世界秩序に組み込まれる訓練をしているのだ。
生きていくうえで必要なことは、歯を食いしばって自分で学ぶしかない。わたしに文字を教えたヘンスは、『貪欲になれ。この
そう言った当時、ボスは二十歳だった。
別れたときは三十歳前。
ヘンス、おまえこそ生き延びろ。
「ねえ、シャオロンさま、ウーシャンさまって、本当に素敵だと思いませんか」
ズースーが、恥ずかしそうに頬を染めて打ち明け話をする。
キラキラとした目で言われると、こそばゆくなってくる。あの皮肉男は一般的には、あこがれの対象になっているのか。
男にはもったいないほど美しい容姿で、それに騙されるんだろう。
貧民窟で『美貌』なんて、不運でしかないんだが。
「あれが」
目一杯の皮肉をこめたあれだったが、素直なふたりには通じない。
「飛び抜けて、お美しい上に賢くてらして」
「単純に嫌味なやつだけど」
「お声を聞くだけでもう。もうもう舞い上がってしまいますわ。友だちに羨ましがられたんです。ウーシャンさまのもとで働くってことで」
「こそばゆいほどの、あの態度は嫌味でしかないだろう」
「素敵ですよね。あの、シャオロンさま。どうか、ご主人さまを恋しないでくださいませね」
「なぁ、どうも話が噛み合ってないと思わないか」
ふたりは楽しそうにコロコロと笑う。
王都の人間は皆、こんなふうに繊細で穏やかで優しいのだろうか。
護衛のようなガルムさえも、身体付きは細くてひょろっとして華奢だ。
「この世界は、本当に平和なのね」
そう言うと、ふたりは顔を見合わせた。
「来られたばかりだから、ご存知ないのでしょうけど。実際は、わたしたちは怖くて仕方がないんです」
「怖い?」
「はい、他国に勝てなければ、水不足で困ることになるかもしれない」
「まさか、こんな豊かな国で、
「このお城は」
「城って、屋敷じゃないの?」
「はい、ここはウーシャンさまが統治する城なんです」と、スーリ。
「実は隣国である
「この国の名前もあるの」
「はい、
円を三等分して作られた三つの王都は、中心に円状の皇都があり、帝が住む城がある。それこそが
あの、嫌味男が王族で第三皇子とは。
世の中、本当にわからないものだ。なんて、お花畑の感想を考えている場合じゃない。
「わたしを連れてきた理由は?」
「あの、この国を救う究極の乙女ですよね」
「そうですわ。間違いないって思います」
「なに、その乙女って」
「
こ、これは、まずい!
ぜったい、まずい!
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