閑話31 朝陽志乃・誕生日LINE②【青葉昴・朝陽志乃】

九月二十三日。零時三十分頃にて。


朝陽志乃

『まだ起きてますか?』


青葉

『お、どしたよ』 


青葉

『ちなみにめっちゃ起きてるぜ。このまま奇声あげながら外を走ってもいいくらいには目が冴えてる』


朝陽志乃

『通報しますね』


青葉

『どこぞの眼鏡先輩みたいなこと言わないでください!!!』


朝陽志乃

『本当に昴さんはもう……』


青葉

『それでどうしたんだい』


青葉

『なにか言い忘れたこととかあった?』


朝陽志乃

『用がなければ連絡しちゃダメなんですか?』


青葉

『あぇ』


朝陽志乃

『好きな人とお話したいって思っただけなんですよ?』


青葉

『うぁ』


朝陽志乃

『ダメなんですか?』


青葉

『そんなことないです!! ご連絡ありがとうございます!』


朝陽志乃

『それならよかったです』


青葉

『ったく……志乃ちゃんも大変お強くなっちゃって』


朝陽志乃

『兄さんと昴さんのおかげですね』


青葉

『お兄ちゃんはともかく、もう一人のほうには感謝しないでほしい所存』


青葉

『でももうすぐ一時になるぞ志乃ちゃん。眠くないの?』


朝陽志乃

『正直に言うととても眠いです』


朝陽志乃

『でも昴さんとお話もしたいです』


朝陽志乃

『でも眠いです』


青葉

『可愛い』


青葉

『とりあえず眠いからテンションが違うのね。把握』


朝陽志乃

『なにを把握したんですか?』


青葉

『こっちの話』


青葉

『じゃあ、ちょっとだけ話そうか。明日もあるんだから夜更かしはいけません』


朝陽志乃

『ちょっとってどれくらい?』


青葉

『十分くらい』


朝陽志乃

『短いよ』


青葉

『短くない。じゃないと、教室でみんなの前ででっかい欠伸を見せちゃうことになるぞ?』


朝陽志乃

『それはやだ』


青葉

『でしょ?』


青葉

『てかもう相当眠いでしょ。敬語も抜けてるし』


朝陽志乃

『気のせいです』


青葉

『そっかぁ』


青葉

『とりあえず、今週の土曜日は志乃ちゃんのお誕生日パーティーだよね』


青葉

『母さんと一緒に行くから当日はよろしくぅ!』


朝陽志乃

『花さんとお会いするの久しぶりなので楽しみです!』


青葉

『お、ちょっと元気が戻った』


朝陽志乃

『がんばって耐えてます』


青葉

『可愛い』


青葉

『母さんもめっちゃ楽しみにしてるわ。司と志乃ちゃんのこと大好きだからなぁ』


朝陽志乃

『本当に楽しい人ですよね花さん』


朝陽志乃

『お仕事のほうは大丈夫なんですか?』


青葉

『あー、超大事な用事があるからって言って昼頃に切り上げるらしい』


青葉

『仕事より志乃ちゃんのほうが大事に決まってるでしょー! って言ってたぞ』


朝陽志乃

『嬉しいですけど恥ずかしいですね……笑』


青葉

『プレゼントもバッチリ選んだからな! 準備は万全!』


朝陽志乃

『わ……! 本当ですか!?』


朝陽志乃

『今年はどんな変なものくれるんだろう』


青葉

『言ってる言ってる。変なものって言っちゃってる』


朝陽志乃

『だって昴さん、毎年そうじゃないですか』


青葉

『否定はしない』


朝陽志乃

『でも、昴さんからいただいたものですから』


朝陽志乃

『私はなんでも嬉しいよ?』


青葉

『俺の秘蔵ブロマイドでも?』


朝陽志乃

『いらない』


青葉

『手のひら返し早すぎない??? いらないは普通に傷つくからやめて???』


青葉

『秘蔵ブロマイドがダメなら俺の蕩けるイケボを集めた特製ボイス集を……』


朝陽志乃

『絶対いらない』


青葉

『絶対???


青葉

『急募。なんでも嬉しいの意味』


朝陽志乃

『ねぇ昴さん』


青葉

『あ、はい』


朝陽志乃

『楽しい』


青葉

『え、なにが? 俺を弄って楽しいってこと?』


朝陽志乃

『ううん』


青葉

『なんだろう』


朝陽志乃

『昴さんとこうしてお話できるだけで楽しい』


青葉

『おぅふ』


青葉

『あのー。志乃ちゃんさ、目開いてる?』


朝陽志乃

『ちょっとだけ開いてる』


青葉

『寝落ちする二歩手前だなぁ』


青葉

『テンションの振れ幅おかしいもんなぁ』


朝陽志乃

『おかしくないです』


朝陽志乃

『おかしいのは昴さんです』


朝陽志乃

『いつもいつも無茶ばっかりして、変なことばかりして』


朝陽志乃

『おかしいのは昴さんだもん』


青葉

『だもん、て』


青葉

『なんで急に説教タイム入った?』


朝陽志乃

『眠いです』


青葉

『うん知ってる。超知ってる』


青葉

『前もこんなことあったよな』


朝陽志乃

『でもまだお話したいです』


青葉

『はいはい、そろそろ寝なさい』


青葉

『話はまた明日できるでしょ?』


朝陽志乃

『うん』


青葉

『物分かりが良くて素晴らしい』


青葉

『改めて、誕生日おめでとう志乃ちゃん』


朝陽志乃

『ありがとうございます』


朝陽志乃

『昴さんもおめでとうございます』


青葉

『なにが???』


朝陽志乃

『わかんない』


青葉

『わかんないかぁ』


青葉

『もう寝なさい。あまりワガママいうとお兄ちゃんに連絡するぞ?』


朝陽志乃

『それはいやです』


青葉

『ならもうお休みの時間です』


青葉

『また明日な、志乃ちゃん』


朝陽志乃

『またあした』


朝陽志乃

『おやすみなさい』


青葉

『おうおう。おやすも』


朝陽志乃

『昴さん』


青葉

『ん?』


朝陽志乃

『だ』


青葉

『だ?』


青葉

『あれ、既読つかない。こりゃ寝落ちだな』


青葉

『おやすみ、志乃ちゃん』 


 × × ×


「見事に寝落ちしたもんだぜ」


 トーク履歴を見返して、くくっと笑う。


 グループで話してるときから頑張って起きてたんだろうなぁって思うと、微笑ましい気持ちになる。


 あの志乃ちゃんが深夜帯まで起きてることなんて、特別な日を除いたら基本的には無い。


 だからこそ、今のような寝落ち志乃ちゃんを見るのは貴重なのだ。


 眠気に抗いたい気持ちと、寝たいって気持ちと……そのほか様々な感情がせめぎ合って、結果的にテンションが不安定になっていたのもだいぶ面白い。


 ちゃんとしてるなって思ったら、次のメッセージではふにゃふにゃしてたし。


 相変わらず、お可愛いことこの上ない妹様である。


「そのせいでこっちも振り回されたけどな」


 『好きな人とお話したいって思っただけなんですよ?』 ――か。


 言葉ではなく、形が残る『文字』で見ると印象も変わる。


 この子は本当に俺のことが好きなのだと。

 耳ではなく、目でたしかに理解させられる。


 どうして――


 なんて言うと、またあの子に怒られるんだろうな。

 

 人が人を好きなのは当然。

 人が人を嫌いになるのも当然。


 彼女が抱く感情は当然のものであり、俺がどんなに否定しようと事実が変わることはないのだ。


 だからこそ、こちら側の感情が変わることも現状ない。


 ……。


 時間帯のせいか、難しいことを考えてしまった。とりあえず今は志乃ちゃんの誕生日パーティーが最優先だな。


 先日会長さんと話したことで、プレゼントも固まった。あとはそれを渡すだけだ。


「――誕生日おめでとう、志乃ちゃん」


 呟きとともに、スマホの画面を切った。


 

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