閑話29 夜LINE㉒【青葉昴・川咲日向】

午後九時頃にて。


ひなた

『先輩、ありがとうございました』


青葉

『メッセージ送る相手間違ってんぞ』


青葉

『あの日向ちゃんが俺にありがとうなんて言うわけない』


ひなた

『む、失礼な! せっかくお風呂上がりになんとなーく先輩のこと思い出して、暇だから仕方なくお礼くらい言っておこーって思って送ったのに!』


青葉

『聞きたくなかった! そんな微妙な反応しかできない事実聞きたくなかった!』


青葉

『もう泣いてやる! あたし泣いてるわ! ぶえええええええ!!!!』


ひなた

『あ、面白そうなバラエティーやってるー』


青葉

『百点満点のスルーをありがとう!』


ひなた

『もちろん冗談ですよー!』


ひなた

『お礼言うタイミング失っちゃって、いつ言おうかなぁってちょっと悩んでたんですから!』


青葉

『てか、なんのお礼だよ。なんかやったっけ?』


青葉

『いつも目の保養になってくれてありがとうとか? それはたしかになぁ。イケメンだしなぁ。お礼を言われるのもやぶさかではない』


ひなた

『そうなんですよねー。昨日見たドラマが面白くてー』


青葉

『こんなに会話が繋がってないことある???』


ひなた

『いちいちボケて話をずらすのやめてもらえます?』


青葉

『すまんなさい』


ひなた

『次変なこと言ったら先輩の下駄箱の中に』


ひなた

『なんでもないです』


青葉

『おい最後まで言えよ』


青葉

『明日から毎日ビクビクして下駄箱あけることになるじゃねぇか』


ひなた

『そんなわけでー』


青葉

『うっす』


ひなた

『放課後の件ですよ。ほら、森の』


青葉

『あーうん。アレな』


ひなた

『先輩、近くにいてくれたんですよね』


青葉

『ああ。まぁ自分で言ったことだしな。バッチリ見てたぜ』


ひなた

『だから、ありがとうございました』


ひなた

『なにかあったら昴先輩が止めに来てくれるでしょーって思ってたので、遠慮なくあいつに言ってやることができました!』


ひなた

『ガツンと言ってやりましたから! あーホントにムカついた! なんなのあいつ!』


青葉

『たしかにガツンと言ってたな。ただ、俺のほうは面白がって見てただけかもしれないぞ?』


ひなた

『とか言って、先輩は結局助けてくれますからね。素直じゃないですねーホント』


青葉

『何回も思うけど、俺への謎の信頼感はなんなんだよ』


ひなた

『それにさー先輩』


青葉

『なんだよ後輩』


ひなた

『玲先輩と晴香先輩を呼んだの、どうせ昴先輩でしょ?』


青葉

『はて』


ひなた

『先輩たちに聞いてもはぐらかされちゃうし、偶然っていうにはタイミングが良すぎるし……』


ひなた

『あーこれ昴先輩だろうなーって。あの人ならやりそうだなーって』


青葉

『さぁどうだろうな。俺かもしれないし、俺じゃないかもしれないし』


ひなた

『うわウザー』


青葉

『ウザいは失礼過ぎると思うんだよ僕』


ひなた

『でも、玲先輩たちが来てくれて安心しました』


ひなた

『昴先輩が近くにいてくれたとはいえ……。正直、ちょっと怖かったところもあったので』


青葉

『そうか。そりゃ偶然現れた月ノ瀬たちに感謝だな』


ひなた

『もー。じゃあ、そういうことにしておきますよ』


青葉

『日向』


ひなた

『なんですかー?』


青葉

『よくやった』


ひなた

『え』


青葉

『物怖じしないであそこまで言ったのは想像以上だった。なんか途中で人のことをバカだのいじわるだの、好き勝手言ってくれてたけどな』


ひなた

『アレはー、ほら! アレです!!』


ひなた

『σ)>ω<*)テヘッ☆』


青葉

『顔文字でごり押しすんな』


青葉

『とにかく、男子相手にあそこまで言えたのは素直にすげぇよ』


青葉

『頑張ったな日向ちゃん』


ひなた

『先輩……』


青葉

『で、どうよ今の? 惚れた? ドキィした!? ぐへへへ!』


ひなた

『あーもぉぉぉぉぉ!!! そーゆーところ! ほんっっっっと先輩ってそーゆーところですよね!』


青葉

『そういうところが好きなんでしょお?』


ひなた

『きらいです』


青葉

『え、あ、え、えあ』


ひなた

『はぁ。だから言ったじゃないですか』


ひなた

『先輩がいるって分かってたからあそこまで言えたって』


ひなた

『まぁ? 司先輩がいてくれたら? もっと強気でいけましたけど!? なんならあのまま背負い投げしてましたよあたし!』


青葉

『お。そうかそうか。おー。なるほど?』


ひなた

『なんですかその反応』


青葉

『いや別に? 次森君がちょっかいかけてきたら、そのときは背負い投げしてやれ』


ひなた

『任せてくださいよ! あたしのツインテールでぶん投げてやります!』


青葉

『異能力漫画かな???』


ひなた

『ってゆーお話でした! お礼を言えて満足~!』


青葉

『森少年からの告白じゃなくて残念だったな(笑)』


ひなた

『残念でもなんでもないですから! あたしは司先輩以外に興味ないので! 例え告白されても嬉しくない!』


青葉

『おいおい、俺のことも興味もってくれよ』


ひなた

『あー。先輩は男のなかで五番目くらい?』


青葉

『あらとってもリアルな数字♡』


ひなた

『司先輩でしょー? パパとおじいちゃんとー、あとは小学生の頃に飼ってたカブトムシでしょー? なので五番目です!』


青葉

『え、俺カブトムシに負けてんの? マジ???』


青葉

『でもカブトムシならしゃあねぇわ。かっけぇもんカブトムシ』


青葉

『これからも五番目の男として頑張ります』


ひなた

『そーなんですよ! かっこよかったなー!』


ひなた

『というか、先輩には志乃がいるじゃないですか。あたしの分まで志乃がたくさん興味持ってくれますよ』


青葉

『いや……あー……』


ひなた

『親友ですからね。あたし、いろいろ知ってるんですよ?』


ひなた

『あ、あと留衣先輩もかな?』


青葉

『あいつはまた違った意味だろうが。恐ろしすぎるわ』


ひなた

『そーなのかなぁ。とにかく! あたしは司先輩を落とすことに精一杯なので昴先輩はその次です! 光栄に思ってください!』


青葉

『光栄に思うところどこ?』


ひなた

『うーん全部♡』


青葉

『わぁ全部♡』


ひなた

『そゆことで、あたし観たいドラマあるのでそろそろおさらばしますねー』


青葉

『おう。今日はお疲れさんな。またなんかあったら司とか志乃ちゃんに言えよ』


ひなた

『俺に言えー、じゃないあたりがマジで昴先輩って感じ』


青葉

『えーだってめんどいもん。よっぽど気が向いたらそんときは聞いてやるよ』


ひなた

『めんどいとか言ってるよこの人。じゃあ今回は気が向いてくれたってことですか?』


青葉

『それはどうかな!!??』


ひなた

『うざ』


青葉

『ちょくちょく思うけどお前、渚に影響されてない? ちょっと渚っぽくなってきてるよな?』


ひなた

『んー? わかんない!』


青葉

『急にアホになるな』


青葉

『ったく。まぁ明日からも適当に頑張れ。またな』


ひなた

『はい~! またです! おやすみ先輩!』


青葉

『おう、おやすもー』


ひなた

『あ、待って』


青葉

『どうした』


ひなた

『覚えてると思うんですけどー。念のため……』


ひなた

『来週、志乃の誕生日ですからね!』


ひなた

『ちゃんとお祝いしてあげてくださいよ! もちろんあたしもしますけど!』


青葉

『分かってるよ。忘れるわけないだろうが』


ひなた

『ですよねー! じゃ、おやすみです!』


青葉

『うい~』


 × × ×


 スマホの電源を切り、布団の上にポイっと投げる。


「志乃ちゃんの誕生日……か」


 日向が言っていた通り、来週の九月二十三日は志乃ちゃんの誕生日だ。


 これまで毎年のように祝ってきたし、忘れるわけがない。


 出会った頃は小学生だった志乃ちゃんも、もう十六歳か……。月日が流れるのは早いものだ。


 見た目もどんどん成長して大人っぽくなっているし、内面もしっかりした子に成長している。


 これまで近くで見てきた身としては、なかなか感慨深いものだ。


 志乃ちゃんや司の誕生日になると、朝陽家で誕生日パーティーを開くのが毎年の恒例行事になっている。


 そこに俺や母さんも招待されて、朝陽家&青葉家合同のパーティーとなるのだ。司の母さんがいろいろ料理を作ってくれて、楽しい時間を過ごすことになる。


 え、俺の母さんはなにするのかって? えっと……うん、賑やかしです。


 料理とか絶対無理だし、身内としてさせるわけにはいかない。下手したら朝陽家が物理的に崩壊しかねない。


 その分、盛り上げ担当として母さんは最強クラスだから許されているまである。


 これまでもそうだったし、きっと来週もそうなるだろう。


「プレゼント……なにか考えておかねぇとな」


 高一の女子高生ってなにが喜ばれるのだろうか――


 ……。


 やべぇどうしよう。全然思いつかん。

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