第50話 野郎たちは恋バナ?で盛り上がる
ここで改めて、二日目の予定について超ザックリ説明しようと思う。
説明しよう!!
計三日間のこの学習強化合宿において、生徒たちが最も楽しみにしているのはこの二日目だろう。
なぜならば、そう。
リア充必須イベントの『キャンプファイヤー』が夜に行われるからである。
準備から自分たちで行うようで、それもまたどこか青春っぽい。
もちろん、大人の目はしっかりあるけれど。
──ま、各班の班長はほかのヤツらより作業量多いんですけどねぇ!
これが権力を持った者の責任ってやつか……ふっ。
そんなわけで、まず朝の体操を終えた俺たちは、これから朝食を摂ることになる。
で、その次からは楽しい楽しい授業の時間になるわけだが……。
昼の時間まで授業を行ったあと、昨日は大食堂での昼食だったけど、本日は違う!
本日の昼は実質調理実習!
外のキャンプエリアに集まって、班員で仲良くカレーを作るのだ!
いやーこれも実にリア充イベントですね。
男女問わず料理上手アピールには絶好の機会である。
がんばれ若人たちよ。
あとはもう昨日と同じように夜の授業と夕飯、自習、そしてテストを終えたら……お楽しみのキャンプファイヤーの時間というわけだ。
このキャンプファイヤーのことを考えて、各授業や自習の時間は昨日と比較して短くなっていた。感謝感謝……。
──てなわけで。
学習強化合宿二日目、始まりじゃ!
× × ×
朝の自習時間にて。
朝からの授業という、とてつもなく苦痛の時間を乗り越えた俺たちは、昨日同様班ごとに分かれて自習を行っていた。
中にはやる気皆無状態の生徒たちもいるにはいるが……あくまでも一部だけで。
やはり流石は進学校というべきか、生徒たちは朝からしっかり勉学に励んでいる。
すごい。すごいよ君たち。
――あ、俺? 俺はどっちなんだいって?
そら決まってるだろ。
やる気皆無側ですけど!?
こんな時間から勉強とか無理ですけど!?
「こんな朝から勉強できるわけねーよ……無理だってのマジで……」
隣に座る広田も俺と同様、やる気ゼロだった。
問題集をテーブルに広げるだけ広げて、一切手を付けていない。
「しっかりやれ……と言いたいところだが、俺も同意見だな」
大浦も似たような感じである。
てかお前、昨日誰と連絡取り合ってたんだよ。
結局聞き逃しちゃって分かってねぇんだぞ。
オラ、教えろオラ!
「てかさてかさ! 今日のキャンプファイヤーマジで楽しみじゃね!?」
「む、そういえば今夜だったな」
「例のジンクスとやらもあるわけだしなぁ。広田と大浦は……誰か一緒に見る女の子いるのかよ?」
ニヤニヤしながら俺も会話に参戦。
勉強とか無理無理。カタツムリ。
俺の質問に、広田は「その質問待ってました!」と表情をパァっと明るくする。
あ、やべ。いらんこと聞いたかもしれん。
「オレ……誘いたい女の子がいるんだ」
周囲に聞かれないように、こちらに身を寄せる。
ヒソヒソと声を抑えて話を続けた。
「まさか拓斗、あの子か……?」
「おいおい、二人だけで会話すんなっての。誰だよ教えろよ」
昨夜しょうもない恋バナしたけどそんなこと言ってなかったじゃねぇか。
まぁ三人で司のモテ具合に嫉妬して終わっただけだったけどさ。
「ダチだしな。教えてやんよ。……ほら、あそこにいる……ショートカットの子」
広田は少し離れた場所にあるテーブルに目を向けた。
その視線に沿うように、俺も同様に顔を動かす。
そこには、明るい髪色をしたショートカットの女の子が座っていた。
笑顔を浮かべて友達と話している。
あの生徒……少なくとも一緒のクラスではないな。
でも集会とかで何度か見かけた記憶がある。
たしか――
「あの子、三組の……?」
「ああ」
俺の呟きに広田は頷いた。
あーやっぱりか。
見たことあるなぁって思ってた。
「アイツさ、マネージャーなんだよ。サッカー部」
「うぇっ」
ビックリして変な声出ちゃった。
「え、もしかして部員とマネージャーによる青春のアレですか? え、なにそれお前ら付き合ってんですか?」
「こえーよ青葉。……いや、付き合ってはねーよ。だけど……なんか、うん。いいなってずっと思ってて」
へへっ、と恥ずかしそうに広田は笑う。
なるほど。マネージャーねぇ……。
しっかり青春してんじゃねぇかオイ。
「キャンプファイヤーのとき……思い切って声かけようと思ってんだよ」
「ほぇー……頑張れよ、広田少年」
「おうよ、やってやんよ」
しっかしマネージャーかぁ……。
いいねぇ、ラブコメだねぇ。
部員とマネージャーが付き合うとか、実際あるものなんだなぁ。
いや別に付き合ってはいないって言ってたけども。
ここはクラスメイトとして、上手くいくことを祈っておこう。
上手くいったら嫉妬の炎で呪ってやるけどネ。
「で、トシはどうなんだよ?」
「俺か?」
「そうだよ、お前はどうなんだよ大浦。サラッとそういう相手いたらマジで許さんぞボク」
「なんで青葉はさっきからキレ気味なんだよ……」
は? キレてねぇし、は? 意味分かんねぇし。
「まぁ俺は……うむ。……一組の」
「あー前に言ってた子かぁ! まだ連絡取ってんの?」
「ああ」
「ひゅー! やることやってんねぇ!」
おい待て。
俺を置いて話を進めるな。
「詳細求ム」
「前に一度、柔道の試合を観に来てくれた子なんだ。それから……まぁ、連絡を取り合っててな……」
はぁぁぁぁ??
なにコイツら。二人揃って青春してんの?
朝陽ばっかりモテやがってぇぇぇみたいなこと言っておいて、自分らもちゃっかり青春してんの?
は? え、はぁ?
片想いなのか両想いなのかは知らないけど、仲良くなりたい女の子はいるのか。
しっかり高校生やってんねぇ。
大浦には、あとでその女の子が誰なのかしっかり聞いておくとして……。
「ま、頑張って誘えよお前ら。フラれたら塩くらいは塗ってやる」
「痛める気満々だなお前」
むしろ痛めつける気しかない。
「そういう青葉はどうなんだ?」
……はん?
突然、大浦が俺に問いかける。
どうやら話の流れ的に次は俺の番になったようだ。
ふーん。
俺ですか。
そうですか。
「あ、そうだぞお前。お前だって誰か――」
「ニコォォォォォ」
「拓斗、青葉が凄いいい笑顔でこっち見てるぞ」
「だな。これ以上はやめておこう」
「いやもっと深堀りしろよ! 詳しく聞こうとしろよ!」
「だってお前、そういう相手別に……なぁ?」
別に……なんだよ!
そこまで来たら最後まで言えよ!
二人は申し訳なさそうに俺から目を逸らした。
……あのねぇ! だからそういう反応が一番傷つくの!
やめて!?
なにがキャンプファイヤーだ。馬鹿馬鹿しい。
男女で見てるヤツらを見つけ次第、その間に割って入ってやろうかな。
もう荒らすことだけに専念しようかな。
……でも、実際のところ。
コイツらに限らず、みんな頭の中はキャンプファイヤーのことでいっぱいなんだろうな。
高校生だもん。仕方ないもん。
「あ、じゃあ青葉さ」
「んだよ」
広田がニヤっとして再び俺に話しかける。
コイツ絶対変なこと言おうとしてるじゃん。
「渚さんとか誘ってみれ――」
瞬間。
ガンッ!!
――と俺たちのテーブル……というか俺たちのちょうど下から異様な音が聞こえてきた。
なにが起こったのか分からないが、恐怖のあまり背中に悪寒が走る。
ビクビクしながらも俺たちは……ゆっくりと視線を落とした。
そこには。
文字通り。
シャーペンが煙を立ててテーブルに刺さっていた。
もう一度言おう。
テーブルに、シャーペンが――
……あれ、これデジャヴ?
昨日もこんなことなかったですか……?
まままままま、まさか。
まさかまた夜叉のお怒りが――!
俺は恐る恐る前に座る月ノ瀬に目を向ける。
すると、恐ろしい顔をした夜叉様がこちらを見て――
なかった。
「なるほど……むしろ玲ちゃんってさ、苦手な科目とかあるの?」
「え、ないわよ別に」
「それをサラッと言えちゃうのがすごいところだよね……」
え。
むしろ仲良さそうに二人で勉強をしていた。
え、じゃあこのシャーペンなに?
どこから飛んできたの……?
「な、なぁ……青葉、俺の気のせいじゃなければさ……」
「なななな、なんだね広田少年」
広田は顔を真っ青にし、恐怖で身体をガタガタと震わせながら言った。
「渚さん……さっきからすごい形相でこっち見てね?」
――――――。
広田の言葉通り、朝陽班へ目を向ける。
そこには。
鬼がいた。
今にでもこちらに飛びかかってくる勢いで睨みつける……薄緑髪の鬼がいた。
あぁ。なるほど。
夜叉じゃなかった。
鬼のほうだったわ。
そりゃ鬼だもん。
離れた場所からシャーペンを投げてテーブルに突き刺すなんて楽勝だよなぁ。うんうん。
だって鬼だもん。
いやー危なかったなぁ。
……てかなんで聞こえてるの?
察知したの? 忍者なの?
………。
よし。
「広田、あとで土下座しに行くぞ。命が惜しければな」
「分かりました青葉隊長」
「あとついでに大浦、お前もだ」
「……え?」
× × ×
「お前らー、自習時間終わりだ。少し休憩を挟み次第、昼の授業に入る。昼は自習時間がないから各自ちゃんと話を聞くように」
自習時間が終わると、大原先生が話を締める。
このあとは短い自由時間。そしてそのまま授業に入り……。
終わり次第、昼食の時間になる。
昨日通りであれば昼食のあと、自習時間が挟まるのだが……今日はその時間は存在しない。
というのも、昼のカレー作りのための時間確保だろう。
どちらにしろ、勉強の時間が減るというのは大変ありがたい話だ。
「では解散!」
先生のその合図で、室内の緊張感が一気に解ける。
途端にガヤガヤとした雰囲気に包まれた。
やはり朝からの勉強というのはストレスなんだろうなぁ。
「ふぅ……私、ちょっとお手洗い行ってくるわ」
月ノ瀬はそう言うと、椅子から立ち上がり大会議室から出て行く。
広田と大浦も、同様に立ち去って行った。
そして残るは……俺と。
「……みんな行っちゃったねー」
「だな」
蓮見だけだ。
やはりその顔はどこか元気がない。
ぞろぞろと生徒たちが退室していくなか、蓮見は椅子から立ち上がる素振りも見せなかった。
うーむ……これはどうするべきか。
じゃ! 俺も! って言って颯爽と立ち上がるべきなのか。
それとも月ノ瀬を待つべきなのか。
「ねぇ、青葉くん」
しかし、蓮見がとった行動は俺の予想とは全然違くて。
「ん? なんぞや」
俺の返事に不自然に微笑む。
それはなんとも彼女らしくない……力のない微笑みだった。
その後、蓮見は申し訳なさそうな表情を浮かべ――
「ちょっとだけ……話さない?」
俺にそう……提案してきた。
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