第3話

 中学校の授業の終わりを知らせるベルが教室に鳴り響いた。入学してもう少しで1年が経とうとしている。時の流れは早いもので、もう数ヶ月で2年生になる。

「香奈、もう帰るか?」

 陵は、彼女にそう聞いた。2人は部活は違えど、いつも一緒に帰宅していたからだ。

「うん、今日は部活も休みだし!だから___」

 彼女が陵に提案をしようとした時、彼女の友人たちが話かけてきた。彼女らの勢いに負けて、思わず陵は1歩引き下がってしまう。

「香奈ちゃん、今日部活休みだし、どこかで遊ばないー?」

 香奈はいつも人が寄ってくるタイプであるが故に、こういうことはよくあった。断ったからと言って、さほど仲間外れにさせられることは無かった為、友人達が傷つかないように優しく答えることにしたようだ。

「ごめん、今日は陵と帰るから!また今度誘ってくれると嬉しい」

 そうやんわりと彼女は友人たちに答えた。そして、彼の方へ向き直して先程の会話を続ける。

「そう!話の続きなんだけど、折角だからどこか寄って帰らない?最近できた駅前のカフェとかさー」

「そうだな、僕も気になってたとこではあるし、行こうか」

 先程の彼女と勢いのある彼女の友人達との会話を聞いていたため、少しばかり彼女の友人達に申し訳ない気もするが、香奈自身の気持ちだから、断ることもないだろうと二つ返事で快諾した。


 余程、楽しみだったのか、彼女は嬉しそうに目的の店へと向かった。

 その目的の店は、郊外の駅前とはいえ新店舗だからか、混雑していた。

 彼女がウェルカムボートに名前を記入しようとしたら、陵は「待って」というように、手をかざした。その様子に不思議に思った彼女は、質問をした。

「どうしたの、陵?もしかして、行きたくない?」

 

 陵は元々人混みが苦手であった、もちろん彼女もそれを知っていたが、彼の乗り気な返事で行くことにしたのだから。まぁ、でももしかしたら、この混雑状況を見て嫌になったのかもしれないと彼女は思った。


「もう予約してある、だから名前書く必要はないよ。実はさっき行くこと決まった時、ネットで空き状況確認したら、たまたま空いて、予約出来たんだ。」

 そう言って、予約ナンバーを店員に伝えに行った。

 予約ナンバーを伝えると、すぐ入店することができた。並んでいる人々を横目に案内された席へと行くと、机の上には予約席と書かれたプレートが置かれていた。そして、席に座りふたりとも同時に安心したからか、「ふう」

 とため息が出た。あまりのシンクロ率に二人とも思わず笑ってしまった。


 メニューを開くと一面にオープン記念と書かれた限定メニューを香奈は食べたいといい、それぞれドリンクとケーキセットを頼むことにした。

 頼んだ商品が運ばれてくるまでふたりは他愛もないことを話していた。人が集まりやすい彼女はコミュニケーション能力に長けていた、故に彼は自然と聴く側にまわっていた。

 それはいつも一緒にいるふたりにとって、当たり前のことだった。

 陵は香奈が楽しく、そして取り繕うことなく自然体でいてくれることが嬉しかった。




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