第33話 アリーナの対決


 ゲーム『ダーク・イェーガー』は協力型のアクションゲームである。

 本来プレイヤー同士の当たり判定はない。


 味方に攻撃は当たらないし、プレイヤー同士のキャラクタターがぶつかったとしても、相手を弾き飛ばすことはできない。

 当然、他のキャラクターのHPを削ることはできないのだ。


 ただし、ひとつだけその方法がある。正確には、それができる場所だ。


 それが地底城最下層にある<アリーナ>。すなわち闘技場である。


 その場所は、プレイヤー同士のバトルを行えるエリアであり、一種のボーナス・ステージになる。

 ここにはエネミーは出現しない代わりに、プレイヤーたちが戦うことが出来るのだ。


 スプリングが、他のプレイヤーを殺そうとするなら、ここ以外にない。そして、このアリーナでは、飛び道具が使えるガンナーがもっとも有利であることは、常識だった。


 いま、徹矢の画面の中でアイザックのHPが削られたのは、地底城最下層において、スプリングがアイザックを攻撃したからに違いない。


 ここでアイザックが倒れてくれると、<ダーク・クレスト>を狙う敵が一人減り、徹矢にとっては有利であるかもしれない。

 が、<アリーナ>で次にスプリングに狙われるのは、アローとミコンだ。


 もし敵として手強いガンナーであるスプリングと対峙するのなら、一人でも味方が多い方がいい。アイザックが倒される前に駆けつけて、彼と協力して三人がかりでスプリングを倒すのが有利に決まっている。


『急ごう』

 アローが前を走るミコンに告げる。


『急いでいるつもりだけど』

 つっけんどんな答え。


 二人は迷宮のような地底城内を駆け抜ける。

 複雑に入り組んだ迷路のような回廊と階段のパズルを、最短距離という解答を瞬時に叩きだしながらミコンが走る。


 ついていく徹矢は、心中で「うまいな」と舌を巻く。


 徹矢ですら、これ遠回りじゃないか?と思うルートを走るミコンは、結果的には短い距離で確実に下の階層へとアローを連れて行く。

 中には、こんなルートがあるのかと徹矢が驚くようなショートカットすら使用していた。


 そして、最後の螺旋階段へ到達した。


 地底城は、巨大な地下空洞の天井に建設されている。地底世界の天井から、下へと向かって尖塔が突き出す、通常とは上下逆の城塞である。

 よって、最下層がいちばん狭い。


 とはいえ、そこは複数のプレイヤーが戦うのに十分なスペースがある。サッカー場とほぼ同じ広さだ。それだけ、銃が有利である。


 螺旋階段を飛び降りて、<アリーナ>の入口から中に飛び込んだアローとミコンは、アイザックの姿を探して中央へ走る。

 画面の隅では、さらにアイザックのHPが削られている。


 すぐに、広大なスペースの中央で右往左往するイエローのアサシンを見つけた。


『ミコン、回復を』


 アローは命じ、<アリーナ>の一番奥に立つグリーン迷彩のガンナー・スプリングに一直線に迫る。


『徹矢、来たか』


 銃を向けるスプリングに対して、アローは初弾を完璧なタイミングのエスケープで回避してみせた。

 ただし、スプリングが持つのはレーザー・サイトつきの拳銃。連射が利くし、取り回しも速い。


 アローのエスケープの無敵時間が切れるタイミングを狙って、連射が来た。


 <アリーナ>内では、回復薬は変えない。魔導士の回復魔法は使えるが、魔法薬も使えないので使用できるMPには上限がある。


 アローの身体に拳銃弾がばりばりと突き刺さり、やられモーションで動きが止まる。着弾のダメージでHPもがりがりと削られた。


 ガンナーの銃弾を喰らうと、ダメージはもちろん、やられモーションが出て動きを封じられるのが痛い。

 しかも、ハンドガンは連射が利く。


 アローは大剣<ジュラシック・サバイバー>を構えて銃弾をガード。唯一ガードできるのがありがたいが、それくらいでガンナー絶対有利の鉄則は揺るがない。


『アイザック、ここはいったん共闘しよう。みんなで協力して、まず最初にスプリングを倒すんだ』


 アローの言葉に、スプリングの射線がずれる。


『わかった。そうしよう』


 ダメージを回復してもらったアイザックが走り出し、スプリングとの間を詰める。ガンナーの銃口が外れたのを確認したアローも走り出した。


 すかさず、スプリングの銃撃。

 だが、アローは大剣を前面にかざしてガード。ガンナーの連射が、弾倉のリロードで途切れる一瞬を狙って超反応でダッシュする。

 別方向からはアイザックが走っている。


 いかにガンナー有利とはいえ、二対一で勝ち目のあるはずもない。


 慌てて逃げ出すスプリングの背中に、アローは躊躇なく大剣の一太刀を浴びせる。

 ジャングル迷彩のガンナーのHPががりっと削れて残り三割。一撃でここまで削れるとは、<ジュラシック・サバイバー>の攻撃力は凄まじい。

 だが……。


 ──このまま、こいつを殺していいのか?


 徹矢は気づく。


 スプリングを操っているのは小栗だ。だが、その身体は何の関係もない大藪のもの。

 腹に出来た人面瘡の小栗に強制されてこのゲームに参加している大藪は、完全なる被害者なのだ。


『みんな、先を急げ』

 徹矢はアローに言わせる。

『エレベーターに乗って、先に進もう』


 ここでスプリングを殺す必要はない。

 要は、ガンナーを置いてここから離脱してしまえばいいのだ。

 これより先で、ガンナーの攻撃がアローたちのHPを削れる場所はないのだから。


 背中を見せて逃げ出すスプリングを見逃し、アローは<アリーナ>の奥側の壁にある出口、すなわちエレベーターの扉を目指した。


 ミコンが従い、アイザックが一瞬スプリングを追撃してその命を奪おうとする動きを見せたが、考え直してアローたちに続く。


 スプリングを殺さないことに決めたのか、それともアローたち抜きでスプリングに挑めば負けることを察したのかは分からない。


 ともあれ、三人そろって海底神殿へ降りるエレベーターに乗り込む。すぐにその扉が閉まった。


 これより、三人は最終ステージである海底神殿へ向かうことになる。



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