第24話 なぜ、みなさんは参加したのですか?


「誉田徹矢くんですか?」


 ショタの胸に手を当てたまま、ショタに似た青年が声をかけてきた。


「はい。あなたは?」

「わたしは小太の兄で、中太と申します」

「あ、どうも、初めまして。……お邪魔してます」


 よく考えたら、ショタの家にいるのだからショタの家族に違いない。顔も似てるし、兄というのは当たり前の話だ。


「弟から話は聞いています。人を取り殺すゲームがあるようですね。弟はそれを探っていました。おまえに除霊はまだ無理だから、深入りするなと私たちは警告していたのですが……」


「ショタは助かりますか?」


 中太はショタの胸に手を当てたまま、難しい表情で首を横に振った。


「これはなかなか恐ろしい悪霊です。かなりの命を吸い込んで、力をつけています。これを除霊するのは難しい。しかも、相手はゲームの中にいる」


 徹矢はゲーム画面に目を落とした。吹き出しが表示されている。


 アローが動かないので、アイザックたちが心配している。


『ちょっと待ってくれ。いまショタの兄さんって人と話している。終わったらゲームに復帰する』


 場所は地底世界。

 エレベーターの出口付近なのでエネミーが来るとは思えないが、このクエストはいろいろとルール違反があるので分からない。

 しかもそれらはすべて、プレイヤーにとって不利なルール違反ばかりなのだ。


「弟の話では、プレイすると死ぬゲームであるとか、ゲームの中でキャラが死ぬと本当に死ぬとかいう噂であるそうですね。弟はゲームの中でキャラが死んだ、ということなのでしょうか」


「はい」

 徹矢はちらりとショタが使っていたアクセル・ボードを覗き込む。


 その画面は真っ暗で、赤い文字で「GAME OVER」とちいさく表示されている。


「あの、ショタは助かりますか?」


 ショタの兄は首を横に振る。

「すぐに死ぬことはありませんが、このままでは……。それより、誉田くん。君に教えてもらいたいことがあるのですが」


「ええ、なんでも聞いてください」


「そのゲームのなかで、マキタという悪霊の役割は何なのでしょう? プレイヤーを殺すことですか? それとも他に目的があるのでしょうか」


「え? マキタの目的ですか?」

 徹矢はきょとんとしてしまう。

「そんなの、昔のクラスの奴らを殺すことだと思いますけど」


「復讐、ですかね?」


「他になにが?」

 徹矢は逆に問う。


「しかし、このゲームは、プレイヤーが自ら参加しないと死なないですよね?」


「いやまあ……そうですけど」


「なぜ、みなさんは参加したのですか?」


 それはあんたの弟に頼まれたからだよ、という言葉を徹矢は飲み込む。

 ショタはゲーム内でマキタを倒して、この死の連鎖を止めたいと願っていた。

 でも、このクエストの目的は、マキタを倒すことではない。ダーク・クレストの入手だ。


「ん?」

 徹矢はちょっと考えた。


 このクエストは、ふつうにダーク・クレストを入手するとどうなるのだろう?

 クエスト完了なのだろうか? 

 その場合、プレイヤーたちは生きているのか? 


 だとすると、これまでプレイした全員が死んでいるわけだから、だれもダーク・クレストを手に入れられなかったということになる。

 マキタに殺されたということか?


 徹矢はたしかにショタに頼まれてこのクエストに参加した。大藪はみんなの仇を討つのだと人を集めていた。


 だが、まてよ。


 そもそも最初に『マキタ・クエスト』をプレイした高木は、なぜ死ぬかも知れないゲームを始めたのだろう?

 あいつ、そんなにゲーム好きだったかな? しかも、受験シーズンに、他校の生徒を集めて。


 そして、次が小栗。


 あいつも、死ぬほどゲームが好きというわけでもなかった。どっちかというと、女好きだった気がする。


 なぜ、あいつらはゲームを始めた。何か理由があったのだろうか?


 アクセル・ボードから音楽が流れ出した。明るい音楽ではない。恐怖を煽るようなBGM。

 エネミーが出たらしい。


「ちょっと待っててください」

 徹矢はアローを操作する。


 地底世界の敵、水晶サソリが何匹か襲ってきている。地底世界でであう敵としては雑魚の方だ。


 徹矢はアローを操作しながら、ミコンにたずねた。


『ミコン、お前なんで、このクエストに参戦したの?』


『別にいいでしょ』

 答える気はないらしい。


 諦めて、アイザックにたずねる。

『アイザック、おまえどういう理由でこのクエストに参戦したんだ?』


『俺にはこのクエストに参加する以外なかったからだ』


『左様ですか』


『俺はこのゲームの中から出られない』


『意味が分からん』


『俺は前回、小栗に誘われてこのゲームに参加した。だが、途中でゲームオーバーになったらしい』


『なんだって?』

 徹矢は驚いてアイザックに問いかける。

『前回、小栗と一緒にこのクエストに挑んだのか? じゃあ、なぜ生きている? そもそも、お前いったい誰なんだ?』


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