第14話 死火山へ
森が終わる。
獣道の先に、動物の骨で組まれた奇怪なゲートが存在する。
左右の柱からは肋骨が突き出し、ゲートの上からは角を生やした頭骨がいくつも見下ろしている。
このゲートが「魔獣の森」の終了を意味する。
ここをくぐると次のステージ「死火山」だ。
『先に行くぜ』
前衛のアローが最初にゲートをくぐる。
基本的にゲートの周囲にエネミーは出現しない。
だが、これは『マキタ・クエスト』。なにが起こるか分からない。
万全を期して、高い防御力をほこるアローが最初にゲートをくぐった。
ステージが変わる。
画面がまっくらになってローディングが開始された。
アクセル・ボードは通信速度が速いし、読み込み時間も短い。
あれだけのステージを読み込むのに、二秒かからないのだから、携帯ゲーム機としては優秀だろう。
暗転した鏡のような画面を見つめていた徹矢は、背後からのぞきこむ顔と目が合った。
だれかが後ろから、徹矢のゲーム機の画面をのぞきこんでいた。
えっ、となって振り返る。
後ろにはだれもいない。
椅子からたちあがり、ぐるりと部屋を一周、見回す。
背後、椅子に座った自分に対して背後となる空間をとくに念入りに観察するが、誰もいない。
ただ床に、中学の卒業アルバムが落ちているだけ。
徹矢は慎重に部屋の中を視線で走査しながら、耳を澄ませた。
誰かいるのか? この部屋に。自分以外の誰かが……。
ごぉーっ、と、ゲーム画面が音を立てている。
死火山ステージの噴火の効果音だ。
死火山とは、すでに噴火しなくなった火山をさすが、このステージの火山は活火山で、元気に噴煙と溶岩を吐き出している。
それをユーザーたちがネットで突っ込んだら、メーカーからの公式回答で、「ここは死の火山なのです」という中二病的なネーミング理由が明かされ、日本中が失笑したこともある。
徹矢はそのときのことを思い出し、微かに笑いながら椅子に腰を下ろす。
「誰もいない。単なる見間違いさ」
わざと大きな声でつぶやいて、反応をうかがう。
物音ひとつしない。
椅子の背もたれに身体を預ける。
机に向かうと部屋の中央に対して背中を向けることになるので、さっきまでとは反対向きの態勢でゲームを再開する。
ステージは「死火山」。
ごつごつした岩ばかりの道なき道。
転がる巨石のあいだにかすかにある色のちがった部分が道であるが、この道以外の場所も移動することが出来る。
手慣れたプレイヤーである徹矢は、その道から外れてモアイのような巨石の間に踏み込んだ。
死火山に描かれた道は、うねっている。
そこをショートカットし、最短距離で死火山を抜ける。慣れたプレイヤーがみんな通るルートで一行も進む。
『なあ、さっきの話だが、このクエストの目的はなんだ? クリア条件はあるのか?』
アローがたずねる。
『それは、さっき言っただろう』
スプリングの回答。吹き出しがぶるぶると震えている。
吹き出しエフェクトの「怒り」表現だ。もちろん本気で怒っているわけではないだろうが。
『すまん。見てなかった』
さっきはそのタイミングで部屋の電気が消えた。おかげでスプリングの回答を見損ねた。
『<ダーク・クレスト>の入手だ』
『あれかー』
<ダーク・クレスト>。通称「ダークレ」は、最終ステージの海底神殿の最奥部に隠された財宝だ。それを入手すればクエスト・クリアとなるわけだ。
『しかし、これはデスゲームなんだろ? ダークレを入手しても、この『マキタ・クエスト』は消えないし、マキタを成仏させることはできないんじゃないのか?』
『そうだ。俺が調べた範囲内では、ダークレを入手する途中で、マキタが襲って来るらしい。それを倒せば、このデスゲームをクリアできるし、マキタ本人も成仏させることができる』
『ということは、ダークレ入手はクエストの目的で、俺たちの目的は途中で出てくるマキタを倒すってことか』
いちおう理解した徹矢だが、やはり突っ込みどころはある。
『マキタが出てくるってなんだ? あいつが敵として出てくるのか?』
『分からん』
スプリングの解答はもっともだった。
『俺は聞いた話をしているだけだ。それだって、実際にプレイした奴はみんな死んでるから、また聞きのまた聞きみたいなものだ』
『ということは……』
と口をはさむのはショタ。
『クエストとしての目的は<ダーク・クレスト>というアイテムですが、ぼくたちの目的はマキタさんを倒すこと、なのですね』
『そうだな』
徹矢は一応肯定しておく。
『だが、マキタに、さんづけはいらねえ』
『しかし、倒せば本当にマキタは成仏できるのか?』
アイザック、すなわちホースケがもっとな質問をする。
『分からないが、それ以外の方法はないと思う』
スプリングがこたえる。
『そもそも』
徹矢はジェスチャーを入力してアローに肩をすくめさせる。
『マキタのやつは、なにをやりたいんだ?』
その問いにショタが大真面目に回答した。
『霊がなにをしたいのかなんて、わかりませんよ。どちらかというと意味不明な場合が多いです。逆に言うなら、そこが分かると除霊は簡単なんです』
『あれ? この人って?』
スプリングがショタのことを指さす。
『そうだ』
大藪の疑問をいちはやく察した徹矢は答える。
『紹介してなかったな。こいつは通りすがりの除霊師さ。マキタの除霊に協力してもらうつもりで呼んだ』
『本当は自分から首を突っ込んできたんですが』
つけ加えるショタ。いまやもう、その辺の経緯はどうでもいいと思うが。
そんな会徹矢たちの頭上を一羽のカラスが飛んでいた。
だが少しシルエットがちがう。カラスの羽のさきっぽはあんなに尖っていない。
『来たな』
いちおう徹矢はみんなに警告する。
あれはカラスではない。おそらく、はるか高空を飛行する飛竜ズールディオスだ。
そして、あの巨大飛竜はどうやら徹矢たちを見つけたようだった。
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