第11話 魔獣の森


 五人そろった。

 徹矢のアローに、小太のショタ、そして美琴のミコン。大藪のスプリングとホースケのアイザック。


 集まったメンバーを見回して、大藪のスプリングが不満そうなセリフを吹き出しチャットで表示する。

『たっか五人かよ』


『やれば死ぬゲームに、五人も集まったんだ。上出来だろう』

 徹矢はアローにセリフを言わせた。


『そのとおりだ』

 イエローのアサシン、アイザックが答え、ロビーアクションでうなずいてみせる。


 だが、スプリングは舌打ちした。

『ちっ』


 おそらく、リアルで舌打ちしてしまい、それを腹立ちまぎれに表示させたんだろうが、こういうのはやめてもらいたい。これからこのチームで、力をあわせてクエストに挑もうというのに。


『そろそろ、始めるか。みんなアイテムの確認を始めてくれ』


 仕方ないので徹矢が告げる。


 大藪はリーダーとしての資質に欠ける。ここは実質的なリーダーを自分がやった方がいいだろうという彼の判断だった。


『アロー、そういう指示はリーダーの俺がだすから、お前は黙っていてくれ』

 大藪のスプリングに注意された。


 徹矢はこの瞬間、ふざけんなよ、この野郎とかっとなったが、それで暴発しているようではネット・ゲーマーとは務まらない。


『わかりました。では、どうぞ。指示を出してください』

 嫌味で丁寧に言ってやる。


 が、スプリングは平然と、

『そろそろスタートするので、各自アイテムの確認をするように』

 と徹矢がしたのとおんなじ指示をだす。


 恥も外聞もないな、と徹矢は心の中でうそぶくが、スプリングはゲームキャラである。

 そのグリーンのスワット・アーマーに身を包んだガンナーの表情には、動揺も羞恥も表れていない。


 ショタがアローの方へ振り返り、問うような態度を取るが、アローは無視。


 かわりに、スマホのチャットアプリをショタに切り替えて、

『やり方わかるか?』

 と書き込む。


『はい。わかります👌』

 とすかさず返信がきた。さらに、


『このスプリングって人、感じ悪いですね💢』

 と。


『気にすんな』

 と返信した徹矢は、独り言ちる。

「絵文字やめろって」



『準備の整った者から、ゲートに集合してくれ』


 お偉いリーダーさまの指示で、クエスト出発の準備が整ったやつから、出発ゲートに集まる。

 ミコンとアイザックがさきに集合し、ショタを手伝ったアローは二人し

て遅れる。


『いいか、みんな。ここからはリーダーの指示にしたがってくれ。クエスト中に修得した回復アイテムはチームで共有する。各ステージごとに提出して分配するから、そのつもりでいてくれ』


 この『ダーク・イェーガー』では、クエストに持ち込める回復アイテムは各二十個までと制限がある。


 他に、敵を倒した場合手に入れられる回復アイテムがあり、同じ回復薬でも、持ち込み分と拾得分では別枠になる。

 持ち込みの回復薬は二十個までの所持だが、クエスト中に拾った回復薬は上限九十九個まで所持できる。

 つまり、最大で百十九個までの所持が可能。ただし、一回のクエストで回復薬をそんなに拾えたりはしないのだが。



『よし、準備がととのったなら、そろそろ行くぞ』

 出発ゲートの前に全員が立つ。ここで全員がスタートボタンを押せば、クエスト開始である。


『じゃあ、行くか』

 徹矢が答える。


『オーケーです』

 ショタも答えた。


『俺も』

 アイザックが答える。


『…………』

 ミコンは無言。


 変な間があったが、察したスプリングが合図を出した。

『じゃあ、出発!』

 徹矢はボタンを押す。他の全員もたぶん押したのだろう。場面が切り替わった。




 アローたち五人は、小高い丘の上に出現した。

 『ダーク・イェーガー』初級ステージ「魔獣の森」。おなじみの場所だ。


 土が露出した丘の上から、深い森に向かって小道がつづいている。

 この丘の上はいわゆる安全地帯だが、この小道をくだって森に一歩入れば、そこは凶暴なエネミーが跋扈するバトル・ステージ、戦場だ。


『「マキタ・クエスト」っていっても、別になんの変哲もないな』

 率直な感想をアローに述べさせる。


『まだまだ分かんねえぞ』

 スプリングがすこし嬉しそうなセリフを吐き出す。自分だって初めてのくせに。


 アローは先に立って進もうとするスプリングを、抜き放った大剣<ジュラシック・サバイバー>で制した。


『リーダーは、あとからどうぞ。ここは前衛が先行しますよ』


『そ、そうか』


 本来、後衛職であるガンナーのスプリングが下がり、アローとショタが前に出る。


 そのあとがアサシンのアイザック。うしろにガンナーのスプリングと魔導士のミコンが続いた。


 まあ、これが手堅いフォーメーションだろう。


 一行は、黒い森へ踏み入る。

 いよいよ、『マキタ・クエスト』のスタートだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る