第5話 死の連鎖
「B組に高木っていただろう?」
「ああ。あの勉強できるけど、頭悪い奴」徹矢は記憶を手繰る。「あいつ。自殺したんじゃなかったっけ? たしか、志望校に落ちて」
「ということになっていたが、違うらしい。あいつ、どうやら『マキタ・クエスト』をプレイしたらしいんだ」
ホースケの返答に、徹矢は片眉をあげる。
「つまり、自殺じゃなく、『マキタ・クエスト』をプレイして死んだってこと?」
「あくまで噂だけどな」
ホースケはサイダーに口をつけた。
「その噂はどこから?」
ショタがたずねた。冷静な質問だ。
「小栗だよ」答えるホースケの目は真剣な光を帯びている。「小栗がいろいろ調べていたんだ。高木の噂を聞いて、自分も『マキタ・クエスト』をプレイする気になっていたんだろう」
「なぜ、高木も小栗も、死ぬかも知れないゲームをプレイしたんだ?」
軽いクレーム口調で徹矢はたずねる。
「そんなにあいつら、ゲーム好きだったか? そして、なぜ、俺が呼ばれていない?」
「怒るのそこかよ」
ホースケが苦笑する。
「あいつらがなぜ『マキタ・クエスト』をプレイしたのかは俺も分からない。高木は受験シーズンの忙しい時期にプレイした。噂では他校の奴らを引き入れたらしい。そして、自殺した。その話をきいた小栗は、こんどは自分の元クラスの仲間を誘って『マキタ・クエスト』をプレイした。それで、高木と同じように死に、巻き込まれた仲間も全員死んでいる」
「全員?」
徹矢は息をのむ。
「全員死ぬのか?」
「まあ、そういうゲームだからな」
徹矢は天井を見上げ、話を整理する。
高木は受験シーズンにプレイして、卒業式前に死んだ。小栗はおそらく卒業後、元のクラスの仲間を誘ってプレイし、先日、これも死んだ。
「ということは……」
徹矢はホースケの目をじっと見つめ、恐ろしい事実について確認する。
「小栗に誘われた連中も?」
「そうだ」
ホースケは目線だけでうなずく。
「松本は突発性心不全、
中学を卒業して、中学の奴らとは疎遠になっていた。いまの学校の仲間や、池袋で出会った女神さまたちのお相手で忙しかったのだ。そんなことになっていたとは。
松本清が病死、
「しかし、本当にゲームの呪いかなにかのせいなのか?」
徹矢はやはり信じることができない。呪いのゲームだかクエストだか知らないが、プレイしただけで人が死ぬか?
偶然死んだ仲間のことを、ゲームしたから死んだということにして噂が一人歩きしているだけではないのか?
「『マキタ・クエスト』の噂は他校にも広がり始めている。うちの中学の卒業生だけでなく、そいつらが入った高校や、高木のとばっちりを受けた中学出身のやつらが騒ぎ始めているよ」
「いま、この界隈は、その噂で騒がしくなっています」
口を挟むのは自称霊能者のショタ。
「出所の不明な怪異や、幽界からも漏れだした存在も跋扈し始めています。これはかなりやばい状態です。といっても、その存在は普通の人たちには知覚できないでしょうが」
「小栗が死ぬ少し前から、大藪がみんなに声かけを始めてるみたいなんだ」
ホースケが肩をすくめる。
「あいつ、もしかしたら『マキタ・クエスト』に挑戦するつもりかもしれない」
「死ぬかも知れないのにか」
徹矢は呆れたように首をかしげた。
「『マキタ・クエスト』をクリアすることによって、マキタを成仏させようと考えているみたいなんだ。なあ、霊能者の君はどう思う? クエストをクリアできれば、マキタの怨念を浄化できると思うか?」
「うーん」
ショタは真剣な顔で考え込む。
「その可能性はあると思います。たぶんマキタさんはなにかをこじらせて死んでいると思うので、その想いみたいなものを遂げさせてあげれば、あるいは……」
「徹矢」
ホースケが改まって徹矢の方へ向き直る。急に正座とかしだした。
「たのむ。もし大藪が『マキタ・クエスト』に参加するのなら、手伝ってやってくれ。この死のクエストをクリアして、マキタの亡霊を成仏させてやってくれ。これ以上死者がでるのは、たまんねえんだ」
「ああ。まあ、そうだな」
ローテーブルに頬杖ついて、徹矢は曖昧に答える。
プレイしたら死ぬというゲームに興味がある。だが、本当にプレイするだけで死ぬのか? そこは信じられない。
他のプレイヤーがリアルで殺して回っているというオチのほうが、まだあり得ると思う。
だが、百歩ゆずって、それが呪いのゲームだったとして、クリアすればすべてが解消されるのだろうか。そんな都合のいい話があるとも思えない。
その日は腹が減ったので帰ることにした。
ホースケには「ゲームしないか?」と誘われたが、「ゲームして死んだらいやだから」と断って外に出た。
暗い夜道をショタと二人、ぷらぷらと歩く。
月がのぼった夜空を見上げていると、となりを歩くショタがふいに口を開いた。
「さっきのホースケさんって人なんですが……」
「ああ」
「……いえ、なんでもないです。些細なことですから」
「あ、そう」
ちょっと気になったが、徹矢は突っ込まなかった。興味がないわけではないが、不必要に他人との間を詰めない。それが徹矢だ。
「あのう、マキタさんってどんな人でしたか?」
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