妖に捕まった

お遣いを頼まれた帰り道、暗くなり始めていたため、速足で山を歩いていた。どんどん闇で満たされ始めた途端、周りがじゃらじゃらと響く。どうして、麓で泊まっていかなかったのかと後悔が募り、ため息が止まらない。音を無視して、震える体を奮い立たせて走る。少し走ったら、頂上付近に辿り着いた。空を見上げると、月が見え始めていたが、


「あとは下るだけだ」


と心を保つために呟き、足を進めた途端


「そこのお方、お待ちなされ」

「うわあぁぁぁあ」


暗かった一面は光が光で満たされ、声に驚き、俺は腰を抜かしてしまった。痛むお尻と手首をさすりつつ、光源と声のする方を見ると、大きな柄模様の着物を着た女性が宙に浮いていた。首に大きな数珠の首飾り、手首にも数珠をしており、周りは提灯が彼女を魅せるように光っているようだ。摩訶不思議な出来事に逃げることも、声を掛けることも出来ない。女性は浮いたまま、俺に近づいてきて、軽く頭を下げ


「驚かせてしまって申し訳ありません。あなた様にお願いがあるのです」


警戒心を無くすために、口角を軽く上げている顔になっていたが、目から睨め付けるようなオーラが伝わってくるため、断れば俺の身に危険が及ぶだろう。これは頼み事なんてものではなく、脅しであった。深く息を吸って、軽く息を吐いた。


「っ分かりました。何のお願いでしょうか?」

「ありがとうございます。それはですね、」


宙に浮いていた彼女はようやく地面に足を着けた。俺の方に手を差し出してきたと思ったら、悲しそうな顔になり


「申し訳ございません」

「どういっ、」


そう呟いたら、首に急激な痛みが襲う。痛みがする首を触るが、血は流れていない。後ろを見れば、男性が左手で先のとがった針金のようなものを持ち、右手では四角の物を持っていて誰かと会話をしていた。


「もしもし、あぁ例の奴は今から連れていく。あっ?アイツも連れていくのか?分かった、また後でな」


四角のものを服にしまい、俺のことをじっと見ていた。睨みつけながら、


「おまえ、は何者、なんだっ?」


首から全身に痛みと痺れが広がっていく中、男性に言葉投げかけた。男性は満面の笑みで弾んだ声で答えた。


「君の味方になれたら良いなと思っているよ」

「それって、どういう」

「これ以上は話せないから、またね」


俺の目に向かって、手のひらを当ててくると、眠気が襲ってくる。痛みと痺れ、そして、眠気を感じながら、意識は沈んでいったのだった。

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