慌ただしい始まり
「そんなの断れるわけがないじゃない」
今日の朝から私は焦っていた。急いで身支度をして、お屋敷を出ていくために。
生まれた時から私に仕えている執事が
「ユリア様、こんなに慌ててどうしたのですか?今日から学校は長期休暇になられたのではないですか?」
扉をノックして、私に話しかける。
「違うの!王女様から呼び出しの便りが朝から来てたの!」
「それはそれは、急がなくてはいけませんね」
「申し訳ないけど、誰か起きているメイドさんでもいいから呼んできてほしい」
「かしこまりました」
私がベッドから飛び起きて、机の上に積み上げられた本が落ちたので、執事が心配になって声をかけてくれたのだろう。
私の急なお願いにも丁寧に対応してくれる。大人の余裕を感じて、私は乱れまくっている心を落ち着けるために深く息を吸って、吐き出すのだった。
長期休暇の始まりから、私は王宮の方へ向かうために髪を整えてもらい、朝食を掻き込むように口にする。
淑女としてはふさわしくないかもしれないのだが、仕方のないことだ。王女様に呼ばれるということはとても大切なことであり、待たせることは出来ない。
これは貴族社会に生まれたものとしては、この世界で生きていくための必要な処世術である。
弟であるカルアがこちらを見ながら
「王女様なら許してくれると思うから、落ち着いて食べたら?」
「ん、それは出来ないわよ。もしかしたら他の方々も呼んでいたら、良くない噂を流されてしまうわ」
「姉ちゃんのお嬢様言葉、未だに慣れないから止めて欲しいんだけど」
気持ち悪いものを見るような目をしている。私は大きなため息をしながら
「家のために必要最低限だから仕方ないでしょ!私もやらなくていいのなら、やりたいないに決まってるでしょ!」
「そうだよね~、姉ちゃんが大人しく淑女してるのも信じられないし、俺も同級生から、『君のお姉さまにぜひ会わせて欲しい。いや、婚約者としての手紙を送ってもいいか?』とか
『カルアのお姉さまであるユリア様に憧れますわ』とか面白すぎて、必死に笑うの堪えてるんだから」
「それは酷くないか。カルア」
「だって本当のことだもん。姉ちゃんの昔の話したらって考えているだけで楽しい」
悪だくみを考えるカルアに、貴族社会で生きていくために身に着けた笑顔を張り付け、声の調子を少しだけ上げて
「お姉さまをからかうんじゃありません、カ、ル、ア」
「あああっ、鳥肌がたつから止めて。俺は姉ちゃんと外で会いたくねぇよ」
首をブンブンと振る姿に満足していると、
「ユリア様、お時間は大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃなかった!ありがとう、教えてくれて。はぁ、カルアのせいだ」
「俺のせいにするなよ。そんな暇があったら、さっさとご飯食べたら?」
カルアの言葉は一理あるので、言い訳せずに、急いで食事を再開するのであった。
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