一夜では終わらない物語
「お話聞かせてよ!」
ベッドで横になっているが、目を輝かせて期待に満ち溢れた顔をしているお坊ちゃん。私はこの家で雇われている身である為、ほどほどに相手をしなければクビになってしまう。
私は一族に伝わり、昔読み聞かせてもらった話をする為に口を開いた。
昔々のことでございます。
新しい命がこの世に産み落とされました。
その命は破滅と再生の運命を持っていたのでした。
新たな生命の誕生に熱を持った人々に冷たい風の知らせでした。
新たな生命の父であり、この国の王が下した決断は慈悲深いものでした。
「破滅という星を持って生まれたが、再生という星も持って生まれた。この子の宿命なのであろう。その際、国が滅ぶことになろうとも…、また新たな進化を遂げるためのものであろう。我はこの子を大切に育てることに決めた。異論は認めない。それでもかまわないだろうか」
誰も反対するものはいなかった。
王は家臣、そして国民たちに愛されていた。この国は珍しく王家が愛されている国でした。
星読みとして知らせを伝えた人も異論は無かった。むしろ、王の決断に感銘を受けたのでした。
新たな命に名を授けました。
その名はシャネ。
我々の国の最初の王の名前です。
これは私たちが生まれてきた国の創始の冒頭です。
我々の国がどうのように生まれたのかを知ることが出来ます。
私は口を閉じ、頭を撫でた。
「それでどんな始まりなの?」
続きを促す声を制して、
「今日はこれまでです。またの機会にお話しします。そろそろ侍女長が来てしまいます。私が怒られてしまいます」
「でも!」
「そしたら、私が世話係を外されてしまいます」
「なら明日も聞かせてね」
「はい、ではおやすみなさい」
私は軽く頭を下げた。出来る限り音を立てないようにドアノブを最後まで掴み、扉を閉めた部屋から出ていく。
足音だけが響く廊下で、ふと窓に視線を向けた。目を奪われるのは今空で1番大きくて、思い出深いものだ。
私は月を眺めて、いくつの夜をここで迎えるのかと考えた。
私がシャネとして生まれ、今までの人生を話すまでは何年かかるだろうか。
話が終わらないことを祈りつつ、またこの国も壊してしまうのだろうと思うと涙が溢れ出てくる。
化け物であるのに、人間みたいに涙が零れる自分自身に笑えてくる。
「ずっとこの夜が続きますように」
叶わない願いを胸に、この国が滅亡するまでのカウントダウンが始まったのだった。
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