恋を知りたくなかった
いつからか彼のことが気になるようになった。あまり話したこともなかったけど、席替えで隣になった時に、彼の様々な表情を見るようになってからだった。
昼食を食べている時の、美味しそうに口をモグモグさせる姿。難しい数学の時に、嫌そうな顔をしている姿。友達と話している時の、楽しそうに笑う姿。特に窓を眺めている時の横顔が、なんとも言えない表情をしていて、目を奪われていた。
毎日見ていれば、彼の顔がキラキラしているようだった。そのたびに、胸が、心臓の動きが早くなって、苦しくなる。もっといろんな顔が見たいなと思い、ふと我に返って恥ずかしくなる。
そんな気持ちを隠そうと必死になっていたが、その気持ちとは裏腹に、彼と話す機会がなぜか増えるようになった。
話すだけで幸せで胸がいっぱいになる。今日は少しだけ話せたとか、好きな食べ物がメロンパンだとかを知れて嬉しくなる。
親友には、彼に恋していることを気づかれてしまい、
「どうしてわかったの?」
隠していたはずなのにと思えば
「前よりもキラキラしているよ!可愛くなっているし、まさに恋する乙女って感じになってたからね。隠すのなんて無理だよ!」
嬉しそうに笑う親友。気づかれたことがやっぱり恥ずかしくなって、顔をそっぽに向けたら
「応援するよ!恋は青春なんだから、後悔しないようにしなよ!」
「…うん、ありがとう」
親友は私の背中を思いっきり叩いて、またニコッとしている。つられて私も親友に向かって口角を上げるのだった。
挨拶を返す仲になり、暇をしている時には話しかけるくらいにはなったころ。私はいつも通りに校舎の裏側から、近道をして帰ろうとしたところ
「……」
話し声が聞こえてきた。ここは人が通ることは滅多にないので、静かに声のする方に向かえば、彼と彼の友達が話していた。
「なぁ、お前最近、隣の女子と話してるよな?」
「そうだけど」
彼がそっけない返事をする。その話題が、私のことだと気づいてその場を離れようとすると
「好きなのかよ?」
からかう声が聞こえてきて、私は彼がなんと言うのかと気になって立ち止まってしまう。
「好きなわけないだろ?あいつと一緒にいるやつのことが好きなんだよ。そいつと仲良くすれば、話す機会が増えるだろ?」
「そうなのかよ。さすがモテ男」
「だろ?でも、話す機会があっても逃げられるからどうしようかな?」
それを聞いてすぐに私はこの場から逃げた。
私は彼のことが好きだけど、彼は親友のことが好きで……。
私は利用されていただけで、親友は私が彼のことが好きだってことを知っているから、離れているのは私のせいで。
胸が苦しくなった。あぁ、これが失恋ってやつだ。告白だってしてないけど、彼が好きなのは親友なのだ。私が告白しても、迷惑なだけで。親友がいい人なのを知っているので、彼が好きになるのも分かるのだ。
理解はできるけど、とても胸が痛くなった。目が沸騰するように、熱くなっている。こぼれないように手で目を抑える。
知りたくなかった。でも、知らずに告白していたら、どうせ同じ気持ちを味わうのも、それが早かったか遅かったかの違いだ。
分かっていても、苦しいのは止まらないし、目はずっと熱いままだ。手は、すでに水のせいで濡れている。
こんな気持ちを知るくらいなら、恋なんて知らなきゃ良かった。そしたら、こんなに胸が苦しくなることも無かったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます