本格的な喧嘩上等!

木曜日御前

とある河川敷にて


 夕焼けが世界を彩る時間、河川敷に十人の男たちが円になり、対峙する男二人を囲っていた。


「おい、新山にいやま! 本格的な喧嘩・・・・・・なのに、遅刻とかナメてんのかゴルァ!」

 中心にいる白地に漢字の刺繍されたベタな特攻服、金髪リーゼントが全く似合ってない細い男が叫び返す。


「うるせぇ、古山こやま! 今どき、下駄箱の果たし状なんて悪戯いたずらだと思うだろ! L○NEか、SNS使え! 令和だぞ!」

 少し伸びた黒髪で、ブレザーな制服を着崩した筋肉質なチャラ男は、呆れたように叫び返した。


「俺の女に手ぇ出して、なんだその言いぐさ!」

「クラスの委員長と買い出しただけだ! お前の彼女だったなんて知るかよ!」

「付きあってない! これからなんだよ!」

「余計に知るか!」

 リーゼントこと古山の言葉に、チャラ男こと新山はキレ返す。新山はこの腐れ縁である古山から、いつも意味不明な因縁をつけられていた。今回もだろうと、汚い字の果たし状を捨てたのだが。仲の良い友人と帰宅中、謎のリーゼントたちに新山のみ拉致され、河川敷に連れてこられたのだ。

「だから、俺はお前と本格的な喧嘩・・・・・・をしに来た! なのになんだ、シャバ僧弱っちい男みたいな格好は!」

「シャバ僧? てか、そもそも喧嘩しねぇよ!」

「いいか、本格的な喧嘩・・・・・・の服装ってのはな、俺のような特攻服か長ラン丈が足首くらい長い学ラン短ラン丈が腰より上の短い学ランに決まってる!」

「んなわけあるか! 俺は帰る!」

 新山は帰ろうとするが、リーゼントに長ラン短ラン特攻服を着た古山の友人が通せんぼした。


「だめだ、決闘場に来たらどっちか倒れるまで殴り合うのが決まりだ!」

「ここは河川敷だ!」

「ハハハッ!これを見よ!」

 ツッコむ新山を無視し、古山は特攻服の裏から、さっとバールのようなものを取り出した。


「武器!?」

本格的な喧嘩・・・・・・には一人一個武器を持ち込める! これは、俺の『八岐大蛇舌丸やまたのおろちぜつまる』だ!」

「喧嘩するとしても、素手だろ!?」

ステゴロ素手の喧嘩だと俺が不利じゃないか! 俺は帰宅部! お前はバスケ部! さあ、始めるぞおらあぁ!」

「自分が都合悪いだけじゃねぇか! 本格的な・・・・って言えばいいと思ってんだろ! そもそも、喧嘩に本格的もクソもあるか!」


 古山がバールで襲い、それを新山が避けていた時。


「お前ら、何してる!」

 河川敷の向こうから、自転車に乗った警察がこっちへやってきた。

「来るのがあと十分早い! 本格的な喧嘩のポリ公は決着後にっ!」

「いい加減しろ!」


「とりあえず、そこの交番まで来てもらおうか」

 その後、皆こっぴどく怒られたとさ。おわり。

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本格的な喧嘩上等! 木曜日御前 @narehatedeath888

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