前哨戦 1
円形の広場。雑多に集まった、子どもたち。曲げた肘を水平に上げると、隣の子に当たるくらいの数。あなどれない。収容してきた、高床式の家々を見上げる。半分以上が、イリスが知らぬ顔だった。
普段と違う。真ん中に立てられた、細長い棒。掲げられた、赤い旗。白抜きの模様は、長い体の不思議な生き物に見えた。
「全員、揃ったな」
「タジク、ロメイン。他、数人が腹痛で欠席です。朝の食事を取りすぎたせいだそうです。治まり次第、参加するでしょう」
周りにいる子たちの背が高い。イリスは見ることはできなかったが。ホルンの声が響く。団長の問いかけに、答えた声。パメラだ。自分より歳が下と聞いていたが。大人とも堂々と渡り合えそうに聞こえる。キースがあくびをするのが見えた。
「判った。……今から、卒業試験を行う。内容は、ややこしいぞ。村のいずれかに隠されている、硝子玉を見つけ出すこと。一人、一個。一回に限り、エンリュウの幹部と手合わせする権利をやるという意味だ」
ホルンが声を張って伝える。皆、静かに聞き入る。硝子玉を持った大人たちが、家々や密林に入っていく。
「幹部と手合わせして、硝子玉が割れなければ。わたしと手合わせする機会をくれてやる。わたしに勝てたら、団長として、新しい私設武闘団を作ることを許可する。以上だ。では、卒業試験、始め!」
ホルンから合図が出された。外側に立っていた子たちの動きが早い。走って、家の中や密林に入っていく。中間は、歩いて。真ん中に立つ子たちは、動けないでいた。
「イリスちゃん、緊張している?」
甘えを含んだシルクの声。イリスは右隣を見る。別の子が立っていた。後ろに視線を向ける。お人形さんみたいな子を見つけた。体ごと向きを変える。
「少しね」
「良かった。シルクもだよ。でも、宝探しみたいで楽しみだよ」
とっさに、イリスは本音を隠す。興奮と高揚感に包まれている、とは。シルクは気づかずに、同意。嬉しそうだ。
「ねえ。どこ、探す?」
「う~ん。まず、タジクくんとロメインくんのお見舞いに行こうかな」
探るようなまなざしで、シルクが訊く。伸びをしながら、イリスは答えた。
「ついて行っても、いい?」
「……。ネネも一緒で良いなら」
両手を合わせて、上目遣いでシルクが頼む。イリスは肩掛け鞄の上にいる、ネネに触れた。皆には、黒猫と紹介してあるが、本能が闇を関知するらしい。苦手な子が多い。
「う、うん」
「じゃあ、行こう」
詰まりながらも、シルクは頷いた。イリスは右手を差し出す。彼女と手をつないだ。ネネは不満そうにした。
密林の中の獣道を通る。薄汚れた、白い箱形の建物が見えてきた。大きな荷物を出し入れできるほどの玄関から、中に入る。階段を登り、二階へ。
「また、行方不明者が出たってよ」
「この団は、どうなっているんだろうね」
「給料が良い。コツさえ、心得ていれば。長続きできるんだ」
「謎の解明なんて、捜査機関に任せときゃいいんだよ。どうせ、今日でおしまいなんだからさ」
「次の団長は、期待が持てる」
聞こえてきた声。噂が好きで、おしゃべりが好きな人たちが交わす会話の。廊下の先の扉が開いていた。
イリスは思う。裏の事情があると、わずかでも察している人が辞めたいと望んだ時。すんなりと、辞めさせてもらえると考えているなら、かなりおめでたい。
キュッ、と、シルクが強く握る。イリスに身を寄せた。怯えた顔。身振り手振りで、合図。息をひそめる。音を立てず、気配も消す。開いている扉の前を通り抜けた。
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