風雲、急を告げるか? 4

 ホルンの自己紹介の途中。荒げた声が割って入る。皆が揃って、聞こえてきた方を向く。軍服を着た、女が歩み寄ってきた。気も、格闘も強そうな。


「ルピナス。……きみが来てくれると思ったよ」


 疲れたという、ホルンの声。弱々しい表情。助かったとの思いも、読み取った。ルピナスは気を削がれた。


「思いついた! ルピナス。きみが、イリスちゃんと手合わせしてくれ」


「いいが。手加減できるが、判らんぞ」


 両手を打って、ホルンが言う。何事もなかったように、明るく。ルピナスは眉をひそめる。広場で話すことではない。思い直して、承諾した。  


「ああ。イリスちゃんも良いね」


「はい」


 有無を言わせぬ、ホルンの問いかけ。私設武闘団に入るための試験、と。イリスも承諾。聞いた瞬間、自分の力を試せると、目を輝かせたのは。家族しか知らない。


「いつでも良いぞ~」


 気楽な、ルピナスの声。イリスは預ける。ネネをクレアに、肩掛け鞄をラウスに。


 イリスは高揚する。体内にある、深紫色の砂粒。呼応したように、光が灯る。ほんのり、緑色にも。司る力、戦いに引きずられているかもしれないが。手合わせは、嫌いじゃない。


 広場の真ん中。互いに、向き合って立つ。ルピナスは態度を改める。気負った様子がなく、自然体のイリスを見て。


 二人の間に、ホルンが立つ。双方を見て、心の準備が整ったと読む。


「始め!」


 村の入り口まで下がった、イリス。ホルンの合図で、一気に詰め寄る。ルピナスの顔が言っていた。あり得ない、と。


 イリスは懐まで踏み込む。ルピナスはのけぞる。下がる間もない。降ってくる右の手刀。右に体を傾ける。


 みぞおちに、感触。ルピナスは見おろす。イリスの左の拳が触れていた。


「はい! 一撃です」


 イリスの一言。ルピナスは誘導されたと知った。右利きと思い込ませて、右の手足を警戒させる。実際は、両利きなのだろう。


 正面を向いたまま、下がるイリス。ルピナスが詰め寄る。打ち合ってみなければ、実力は測れない。


 イリスは手元で、小さな物を弾く。水平に飛んでくるのを警戒して、ルピナスは左に避ける。崩れた体勢を立て直す。改めて、詰め寄る。


 イリスは左足で大きく半円を描く。一瞬、光る、靴。見て取った、ルピナスは飛び下がる。垂直に弾いたと気づく。判断が遅ければ、自分がふっ飛んでいた。


「それまで!」


 ルピナスが降参。ホルンが手合わせの終了を告げた。


「おっまたせしまって、申し訳ない。ただいま、メフィストが到着しました。あれ? 歓迎されてないですか?」


 村の入り口から、メフィストが入ってきた。浮かれた格好に、ルピナスとルピナスが眉をひそめる。クレア、ラウス、イリスはあきれた。ネネは同情する。


「人をたぶらかすのも、ほどほどにね」


「ハイ。ソノトオリデスネ」


 たまたま、近くにいた、イリスが相手をしてやる。お見通しの言葉。メフィストは表情を無くして、認めた。


「ガキどもを、しごいてやろうか?」


「大人をお願いする」


 ルピナスが言い出す。飛び火した。覗いていた、子どもたちが引っ込む。ホルンが頼む。最近、たるんでいる。


 イリスは両親の方に歩き出す。ラウスは後ろの建物を見上げていた。怒って見えるのは、気のせいではないと思われた。


 すれ違う。ホルンがささやく。聞き取り損ねそうなほど、小さく二言。


 イリスは解く。ホルンからの暗号を。指令が出された。謎を突き止めて、解決せよ。


 キースとタジクが戻ってきた。訳判らんという顔で。


「卒業試験を行うぞ! 心しておけ!」


 ホルンが声を張って伝える。タジクとキースが笑みをこぼした。

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