風雲前夜 7
笑みを浮かべて、クレアが言う。声を抑えて、ラウスは推測を話す。
クレアは瞠目する。思い返せば、あまりにも、手こずる敵が来すぎる。連絡がくる時機が早すぎる。つまり、仲間に、諜報員がいると意味していた。
「犯人の目星もついていそうね」
「今更、言う必要があるか?」
再び、笑んで、クレアは指摘する。ラウスの答えに絶句した。否定できない自分がいる。羽無しに負けたことが……。
「襲ってきた存在たちから、傾向が判る。使いやすいというのもあるだろうが。自分が駒を動かしたいのさ。結果を出し……」
「前にも話したけど、あなたの頭脳を、イリスが継いでいたら……」
「片鱗はある。連中に、警告に行こうとしていた」
「!?」
ラウスは自分の推測を語る。後方にいる、メフィストが反応した。黒幕は判っていない。神々は駒との間に、誰かが入るのを嫌がる。
ため息混じりに、クレアは望みを告げる。ラウスに教えられて、娘の行動に納得した。
「警告しても、一人くらいは犠牲が出そうだ。存在なら、標的が牢屋にいようが。侵入はたやすい。つながりのある、本命を絶つか。代わりを絶つか。身元の洗い出しが早ければ、防げるかもしれない」
ラウスは自らの読みを語る。イリスと一致した。連れて行かれる、混合部隊を見やって。黒幕は自分が指示したとの証拠を明るみに出したくない。証人になる人を、殺しにかかる。敵の油断を誘うためには、最低でも一人を。
手の内を読んでいるぞ。ラウスは威圧した。諜報員と背後に居る人たちを。全員の命を守れるほどの効果があるか。未知数だが。
「いずれにしても、シルフィア世界に行って、話をつけなきゃいけないな」
「いつ、行くの?」
「行かなきゃいけない環境を整えてくるさ。それを待てば良い」
我に返った、ラウスが話を戻す。乗り込むと表明した。ワクワクしながら、クレアが訊く。答えに、途方もなさにめまいがした。膿を出しきるまで待つと判っていても。敵が有利な状況の中に、飛び込まなきゃならない。
イリスが立てる寝息。覗き込んだ、ラウスは笑みを浮かべる。突き当たった、クレアの腕の中に娘。勝ち誇った顔。背を向けて、歩き出す。
「ロゼウスタを名乗らせるぞ」
「……」
「生まれたフルール系惑星エルミレアと組み合わせれば、今よりも敵の数を減らせる」
怒らせると判っていて、ラウスは切り出す。声を落として。ロゼウスタは、ラウスの家族名だ。出身の惑星よりも、生まれた惑星を優先させるべき、と。
顔を伏せて、クレアはイリスを強く抱きしめた。神々の駒は、ここに居ると宣伝するようなものと判っていても。命を危険にさらすと判っていても。娘には、アルストランチア家を名乗らせたかった。ナリア系惑星イレイヤにしたことも。自分の母のキセラとのつながりが薄いからだ。
離婚はもっとあり得ない。世間的な、まっとうな理由ではない。キセラに褒められたからだ。彼を選ぶなんて、クレアは見る目がある、と。
「じゃあ、わたくしは、偽者を多く立てるわ」
潮時なのだ。妥協した、クレアは上体をひねって後ろを見る。宣言した。歩き出す。
日が陰る。怪しい雲行き。今居る国の名物の風雨にさらされる前に、全員が建物内に入れる。
「さあて、どちらが早いかな」
ラウスの独り言。クレアに呼ばれて、グロシュライトと共に向かう。オルネリアンとメフィストのところに。今後のことを話し合うために。新たな段階に入った。
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