風雲前夜 5
「素晴らしい」
メフィストの目の色が変わる。振り返った、イリスにいぶかしげに見られたのを気づかなかった。
オルレアは笑む。離れるのを待っていた。同時に、人智を超える力を使う。間近に出た。
ラウスがメフィストに、オルネリアンがオルレアに、体当たりを食らわす。イリスはグロシュライトの光に包まれて、地面に潜った。
「嘘つきめっ!」
「すべて、読まれてましたか」
「おうちに帰れ!」
「え~! ちょっと、待ってくださいよ。契約期間は残っているんですけどぉ」
見おろした、ラウスが叱る。尻をついて座る、メフィストが頭をかく。悪びれない様子。きびすを返し、スタスタと歩き出す。慌てて、追い掛けた。
魅入られた顔のオルレア。険しい顔で見返す、オルネリアン。
オルネリアンの胸元を飾る。宝石がちりばめられた装飾品。中に、砂粒ほどの大きさの宝石が混ざる。赤銅色(赤金に見える)の光を放つ。
赤銅色の砂粒が、ちまたでは、力を宿した宝石と呼ばれる。領域では、魂核と呼ばれる至高の物。
「それは、わたしの物だ。返せ」
「……」
「創られた人間の分際で、持っていて良い物ではない」
憑かれているとしか思えない声で、オルレアは主張する。表情を変えず、オルネリアンは見つめる。ひどくののしられて、一瞬、不快な顔をした。
確かに、オルネリアンは赤銅色の物を持つ。ちまたでは、本体と呼ばれる。本物の魂核を。正式な手続きを経て、手に入れた。他の存在に、所有を主張されるいわれはなかった。
「取り返させてもらうぞ」
表情が一変。オルレアが攻撃する体勢を取る。オルネリアンも。同時に、地を蹴った。
「アマランサス・パープルですか。良い色ですね。あなたが要らないのてしたら、わたしにください」
回り込んだ、メフィスト。精確に棒で突く。オルレアの体から、深紅色の砂粒が飛び出す。姿が薄れていく。
「メフィスト、貴様!」
「嫌ですねぇ。人智を超える力を持つ存在の前で、真実の名を名乗る訳がないじゃないですか」
ののしるように呼ぶ、オルレア。名で操り、取り戻そうとした。深紅色の砂粒は、メフィストの手の中のまま。驚愕する相手に、笑ってみせた。
「貴様! 忘れんぞ!」
「じゃんじゃん、来てください。あなたが持つすべての欠片をいただくだけですから」
残った、右目と周り。恨みと執着がこもったまなざし。脳裏に響く、オルレアの声。むしろ、メフィストは歓迎する。すべて勝ってみせると宣言した。姿も気配も消える。
「助かった」
尻もちをついた、オルネリアンが言う。踏み込んだものの、メフィストを見つけて身を後ろに引いた。
「利害が一致しただけですよ」
感謝するには及ばないと、メフィストが答えた。オルネリアンが立つ。
「俺の気が済まないんで、感謝させてください。ありがとう」
「こちらこそ、手に入れる好機を作ってくださり、ありがとうございます」
オルネリアンが手をひとひねり。両手の中に、握り拳大の赤い果実が五つ。差し出した。メフィストは理解する。正体を見抜いた上で、暴かずに贈ってくれる。受け取った。
静かに、ラウスはたたずむ。視界の端に入れた者たち。ハッ、として、身を反らす。一斉に、口を開き掛ける。宙を光の線が走った。弧を描き、虹が現れたと錯覚した。
「おま……」
「いつの間に?」
人間と人外の混合部隊が声を発する。彼らが持つ銃の半分が落ちた。欠けた箇所を見れば判る。切られた、と。ラウスの仕業と想像がついた。武器を持っていないことは確認済み。種明かしされなければ、何が起きたのか。永遠に判らないままだろう。
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