第8話 洞窟を進めば

 洞窟の前。

 僕と伊織、ニャフとグルルが並んで中を覗き込む。


「なぜ我がこのようなことを!」


 ニャフは不満そうにブツブツと文句を言っている。


「だって、猫じゃないと分からないことだってあるでしょ? それに、こんな冒険こそ、騎士の仕事じゃない!」


 伊織が、不満そうなニャフにそう言って、洞窟の中に入っていく。

 僕も、『ホズミの巻物』を持って、伊織の後を付いて行く。


「待て! 危険かもしれないだろう? どんな怪物が出てくるかわからん! これを持っていろ!」


 ニャフが、伊織にランプを渡して、慌てて剣を構えて先頭に立ってくれる。

 さすが騎士だ。僕らを守ってくれるつもりなのだろう。

 グルルも、僕らの後ろに立って、背後を警戒してくれる。


 洞窟を進めば、柱が一本真ん中に立っている。

 柱には、巻物を咥えた蛇の絵が、柱にグルグルと巻き付く形で彫られている。

 先の道が三本に分かれていて、どの道に進んでいいのか分からない。


「友介、その『ホズミの巻物』には、何か書いていないのか?」


 ニャフに言われてもう一度巻物を開いて読んでみるが、先ほどのメッセージ以外は読み取れそうにない。


「うーん。何にも無さそうなんだけれども……」


 僕は、巻物をひっくり返したり、ランプの灯りに透かしてみたり。

 でも、さっぱり分からない。


「あれ? これってひょっとして……」


 伊織が、ランプを僕に渡して、巻物をひったくる。

 伊織が熱心に見ているのは、巻物の裏。


 伊織は、徐ろに、洞窟の真ん中に立っている柱に、巻物をグルグルと巻き付けいく。蛇の絵に合わせて、丁寧に巻物を柱に巻き付ければ、ちょうどぴったりとシッポの絵の部分で巻物も終わる。


「やっぱりそうだわ。見て!」


 伊織に促されて見てみれば、柱に巻き付けられた巻物の裏に地図が浮かんでいる。


「やたらと長い巻物だと思っていたけれども、このためだったのか……」


 伊織の話によれば、これは昔からよくあるスパイや忍者の伝達方法。

 長い包帯や巻物みたいな紙を筒状の物に巻き付けてからメッセージを書く。そうすれば、何て書いてあるかは、筒から外せば分からなくなる。

読み取る時には、もう一度同じ大きさの筒状の物に巻きつければ、メッセージが読み取れるということだ。


「ボーイスカウトで、ちょっと聞きかじったのよね」

「ボーイスカウトってそんなこともやるんだ」

「そうよ。キャンプしたり、秘密の伝達方法教えてもらったり、紐の結び方を練習したり」


 伊織がやけに熱心にボーイスカウトに通っていると思ったら、そういうことか。

 伊織が好きそうな活動だ。


「それよりも、地図! 早く先に進みましょう!」

「ええっと、右の道へ行って、その後は、真ん中を進んで、次は左……これは、地図が無かったら確実に迷っていましたね」


 グルルが道順をメモしてくれる。

 僕たちは、巻物を柱から取り外して、巻き直して持っていく。

 この巻物は、まだ後で使う可能性がありそうだし。


「しかし、面倒でややこしいな。ホズミはどうしてこんなことをしたのか」


ニャフが、道を進みながらため息をつく。


「きっと、巻物の所有者だけに確実に先に進んでほしかったんじゃないかな」


 僕なりの意見。他の誰かが偶然に洞窟に入って先に進んでも、巻物の所有者だけに『残した物』が手に入るように。ホズミという人物は、暗号を残したのだと思う。


 暗い洞窟の中。

 伊織の掲げるランプの灯を頼りに先へ進めば、そこは行き止まりになっていた。

 大きな岩が行く手を防いでいる。


「道間違えましたかねぇ?」


 グルルがオロオロしながら、メモした道順を反芻する。

 一緒に僕も見てきたけれども、間違えたはずはない。

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