第6話 ホズミの巻物

 僕と伊織が連れていかれたのは、王様の城。

 玉座に座る太り気味の大きめの長毛の猫。真っ白な毛並みが美しい。

 あれが、ニャッタールダ十四世なのだろうか。ペルシャとかそんな種類の猫だっけ?

 玉座の猫の頭には、ちょこんと王冠が載り、赤いマントを羽織っている。


「頭が高い。朕こそは、ニャッタールダ十四世。このニャニャンデルの国王なり」


 この国の名前は、ニャニャンデルというのか。

 僕と伊織は、頭を下げて、ニャッタールダ十四世の言葉を待つ。


「勝手に、ニャフとグルルの後を付けてきたとな? フム。人間は久しぶりじゃ。名前は……イオリとユースケか。フムフム」


 ニャッタールダ十四世は、しげしげと僕たちを見ている。


「この国の秘密を外界の人間にあまり知られるのは良くない。だから死刑……と言いたいところだが、お前達にこの慈悲深いニャッタールダ十四世様が、チャンスをやろう」

「何よ。偉そうね!」

「い、伊織! ちょっと喧嘩しないでよ!」


 せっかくチャンスをくれると言うのだから、話はちゃんと聞かないと。

 

「あれをこれへ」


 ニャッタールダ十四世の指示に家来の猫が戸惑う。


「あれ? これ? でございますか?」

「分からん奴だな。あの『ホズミの巻物』をこいつらに見せろと言っている!」


 ああ、なるほど。と、家臣が頷いて、何かを持ってくる。


 猫が持ってきたのは、古ぼけた巻物。開くと日本語で二つの文が書かれている。

 裏は、何だか分からない線が書かれているが、これはきっと模様だろう。

 書かれている文に対して、何だか長い巻物なのは気になるが、今は二つの文に注目してみる。


『にくきゅうをはずし、ねこのひげをくわえよ』

『やにうえのくざかな、げしきゅ、れいじの、かうがしめすばしょ』


「何よこれ?」

「このニャッタールダ十四世の英知を持ってしてさっぱり分からんのだ。ヒゲを咥えてみても分からんし、肉球は、そもそも外せん」


 ハア、とニャッタールダ十四世がため息をつく。

 肉球を開いたり閉じたりしながら見つめている。


「これは、以前この国にいた『ホズミ』という人間が置いて行った物なのだ。色々な物を作って楽しませてくれていたホズミ。とても猫たちと仲良くしたのだが。ある日こつ然と姿を消した。そのホズミの部屋に残っていたのが、この巻物なのじゃ」


 ニャッタールダ十四世が、懐かしそうに目を細める。

 ニャッタールダ十四世も、そのホズミという人間と仲良くしていたのだろう。


「知りたいのじゃ。ホズミが我らに何を残したのか」


 悲しそうなニャッタールダ十四世の声。

 きっと、ニャッタールダ十四世は、ホズミがいなくなったことが寂しいのだ。

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