第3話 冒険クラブ

「で? 続きは?」


 そう言って、僕を睨むのは、幼馴染で五年三組の同級生の三上伊織みかみいおり


「え、それだけだよ。だって、中に入るのは怖いし」

中条友介なかじょうゆうすけ! そういうとこよ! この冒険クラブのメンバーとして、もう一歩踏み込まないでどうするのよ! せっかくの冒険チャンスに!」


 僕を指さして、伊織が叫ぶ。

 僕と伊織は、二人で『冒険クラブ』というクラブを立ち上げた。

 というよりかは、好奇心旺盛で色々と首を突っ込みたがる伊織が、僕を巻き込んで強引にクラブとして学校に申請して、無理矢理クラブ活動にしてしまったのだ。


 普通の子が、お絵かきクラブやバスケクラブ、サッカークラブをしているクラブの時間に、僕は伊織と顧問の坂木さかき先生の三人で、冒険について語り合ったり、裏山に登ったりしているのだ。

 本日は雨のため、今週起こった出来事について話をしていたのだ。


「まあまあ、三上さん、落ち着いて。えっと、猫を追いかけて空き家に入ったら、床に魚が落ちていたのだろう? 僕は、中条さんの入って行かなかった勇気を讃えたいな。だって、空き家と言っても、誰かの家だろう? 勝手に入るのは駄目だし、何か危険なことがあったら、取り返しのつかないことになる」


 坂木先生が、それ以上は調べられなかった僕の行動を褒めてくれる。

 穏やかで良い先生だと思う。

 生徒の話を静かに聞いて、どんなことも頭ごなしに怒ったりしない。


「危険なことってなによ? 宇宙人が出てくるとか?」

「う~ん。それも否定できないけれども、現実的には、床板が外れて怪我をするとか、

悪い人が中に潜んでいて殴られるとか」

「お化けはどうかしら?」

「お化けかぁ~。それは先生、管轄外。一度も見た事ないからなんとも……」


 坂木先生が、伊織のお化け発言に真剣に考え込んでいる。

 どうして伊織は、危険という言葉に、逆にワクワクしてしまっているのか。

 

でも、坂木先生の言う通りだ。

 不用意にそんなところに入っていったことは、後から考えればとても怖いことだったんだと気づく。だって、古い建物だし、壁や床が倒壊することだって考えられる。


「ねぇ先生! 猫が話をしたって友介は言っていたでしょ? そう言うことってよくあることだと思う?」

「どうだろう? 僕は、話す猫は見たことはない。小説の中だけ。でも、こう言っているのではないかなって想像はする。友介が見た猫が話したのかどうかは分からない。色々と考えられるよね? 例えば、猫の様子を見て、そう言っていると思い込んでしまったとか……近くを通った人が、そんな会話をしていたのを、猫が言ったと思ったとか」


 つまり、坂木先生は、僕の聞いた猫の会話は、聞き間違いか勘違いの可能性が高いと考えているということだ。


「友介は嘘を言う子ではない。だから、本当に猫が話していたか、そう思う何かがあったんだと思うんだ」


 坂木先生は、そう言って穏やかに笑った。

 僕は、先生の言葉を聞いて、猫のことを思い出す。

 確かに、猫が話していたんだと思ったのだけれども。何がそんな風に聞こえたのだろう。

 あの時、周囲に人はいなかった。

 聞き間違い? 風の音とか? まさかそんなはずはない。


 気になるけれども、それ以上は、何の証拠もない。

 スマホがあれば動画でも撮っておけたのだろうけれども、僕は、あいにくスマホを持っていない。何の証拠もないのだ。


 僕の不思議な猫の話は、それで終わり。

 後は、伊織が週末に行ったボーイスカウトキャンプの話や、先生の自炊の話。焚火でマシュマロを焼いた伊織の話も、先生が冒険してウドンにトマトを入れた話もとても面白かった。

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