第2話 猫屋敷


 近所に、『猫屋敷』と呼ばれている空き家がある。

 昔、発明家が住んでいて、その発明家が亡くなってから、ずっと空き家なのだと聞く。

 敷地を周りを石の塀がぐるりと囲み、家の庭は雑草だらけ。

 ひと気のないレンガ造りの洋館が、その中に建っている。小さな古ぼけた『保住研究所』と書かれた木の看板がついているのが、唯一の過去のなごり。


 小学校の同級生の間では、その敷地にいつ見ても野良猫がたむろしていることから、『猫屋敷』と呼ばれているのだ。


 誰も近寄らない場所。

 そう。僕も、近寄らないつもりだった。

 だけれども、見てしまったんだ。学校の帰りに。


 二本足で歩く猫二匹が、大きな木の箱を抱えて、洋館の中に入っていくのを。


 トラ猫とブチ猫が、二匹で箱を抱えて、「急げ! 鮮度が落ちる」「そうは言っても重いんだよ!」と、言い争っているのも聞いた。


 そんなの気にならない訳がない。

 だって、猫だよ? 猫が話すなんて!


 僕は、猫たちの後を追って、洋館の中に入って行った。


 古ぼけた洋館。

 扉は開きっぱなし。

 雨風にさらされて、床板は所々腐っていてギシギシと音が鳴る。


 玄関から続く廊下は、思ったよりも広い。


 日は差さないから、薄暗い室内。

 奥には、研究室へ向かう扉が付いているが、そこは閉まっている。右隅には、二階に上がる階段。奥の扉脇には、大きな姿見が付いている。


 冷たい壁は、白く塗られていて、グリーンの扉が何だかおしゃれだが、どれもペンキはハゲかけて、元々の木の色が見えていて、お化けが出そうだ雰囲気だ。


 さっき見た猫の姿はない。


 怖くって、前にすすむ勇気はない。

 猫は気になったけれども、それ以上一人で進むことは出来なかった。


 入り口付近で目を凝らして暗い部屋を見渡せば、奥の扉の前の床に何か落ちている。


 ……魚?


 五センチほどの大きさの魚が一匹。

 床に落ちていた。

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