44. ガークレオンside 死にそうな程
シルフィーナとアルバートが幸せな日々を送っている頃、パレッツ王国の辺境にある鉱山で怒鳴り声が響いた。
「おい新入り! もっと力を入れろ! そんなんじゃ何も採れないぞ!」
「分かっている!」
「もっとツルハシを勢い良く下ろせ!」
ここで採れるのは、ダイヤモンド。
世界一硬いと言われているその宝石の採掘は、細腕のガークレオンにとっては難易度が高かった。
もっとも、柔らかい金属である金鉱石の採掘であっても、公爵令息の立場で胡坐をかいていた彼には難しかっただろう。
そんな訳で、ガークレオンは王国から雇われて働いている者達から、使えない新入りのレッテルを貼られている。
「せめて、少し休ませてくれ……。死にそうだ」
「まだ十分しか経っていないぞ! 水ならここにあるから好きなだけ飲め!」
汗を流せる水魔法を使えていたら、こんなに不快な思いはしなかっただろう。
風魔法で涼むことが出来ていたら、蒸し暑さに苦しむことはなかっただろう。
しかし、今の彼にはその力はない。
どういうわけか、精霊の気配が消えて魔法が使えなくなったからだ。
一属性であっても、精霊に嫌われれば忌み子ということになるから、二属性も失った今のガークレオンは間違いなく忌み子と言える存在だ。
火魔法の力は残っているものの、狭い坑道の中で使えば多くの死傷者が出てしまうことは想像に難くない。
もしも人殺しをしてしまえば、平民となった今はすぐに処刑されるだろう。
死にそうな状況にあっても、処刑されることは望まなかった。
(この地獄を抜けたら、絶対に女を抱く)
……下心を満たすという欲望のために。
そんな目的のために、ガークレオンは力を振り絞り、硬い岩にツルハシを叩きつける。
しかし、乾いた音が響き、ツルハシの先端が折れた。
「あー、また歯が立たない岩か」
「新入り、外から合図するから、例の魔法で岩を砕いてくれ」
「分かった」
使えない新入りとレッテルを貼られてはいるが、こういう場面では役に立っているから見捨てられていないガークレオン。
坑道が崩落すれば生き埋めになってしまうが、パレッツ王国建国時の英雄――火の大魔法使いの子孫である彼が本気を出せば山を抉ることも出来る。
蒸し暑さに耐えきれなくなって気を失ったら、ここにいる仲間が助けてくれる。
だから、死にそうな思いをすることはあっても、死ぬ時はまだ何十年も先の話になるだろう。
「よし、今だ!」
坑道内をそんな声が木霊する。
それから少し間を置いて、ガークレオンは詠唱を始めた。
それから少しして、爆音が響く。
仲間達が戻ると、狙い通りに砕け散った岩の破片の上で満足そうに視線を向けるガークレオンの姿があった。
この鉱山の厳しさはこの程度ではないということを、彼は知らない。
同じ頃。
クリムソン公爵がガークレオンの凶行を止めなかった事を咎められ、公爵位を剥奪され男爵へと落ちぶれることになったけれど、それはまた別のお話。
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