43. 変化した日常

「すごく似合っていますよ」

「元が良いとドレス姿も美しくなるという噂は本当でしたのね」

「シルフィーナ様、すごく綺麗ですわ」


 侍女たちに囲まれ、そんな言葉をかけられる。

 今の私は純白のドレスに身を包み、色々な装飾品を試している。


 公爵家での淑女教育を終えていた私でも、妃教育は大変だった。

 最初は一月で終わらせると意気込んでいたのに、三月もかかってしまった。


 今試着しているウェディングドレスを仕立て終わるまでに三月ほどかかっているから、妃教育の期間は丁度良かったのかもしれないわ。

 それに、セレスト家全員揃っての日々も心地よいものになっていたから、後悔は何もない。


 アルバート様をより恋しく思うようになっただけ。


「やっぱり元が良いですから、宝石で目立たせるよりもシルフィーナ様の魅力を引き立てる方向で飾った方が良さそうですね」

「シルフィーナ様、装飾品は抑えめでもよろしいですか?」

「ええ。そうしてもらえるかしら?」

「畏まりました」


 ついさっきまでは装飾品でキラキラしていたけれど、違和感がすごかった。

 私が普段からあまりお飾りを着けていないからかもしれないけれど、それでも似合っていなかった。


 控え目にした今は、納得できる雰囲気になっている。


「これが一番良さそうですね」

「私も同意見です。シルフィーナ様、如何ですか?」

「今が一番良いと思うわ」


 全身真っ白の状態だけど、お飾りは金色――アルバート様の色も取り入れている。

 それが程よいアクセントになっている気がしている。


「では、アルバート様をお呼びしますね」

「ええ、お願いするわ」


 私がそう返すと、侍女がアルバート様を呼んできてくれた。


 今の彼は王族の礼服に身を包んでいて、普段よりも美麗に見えている。

 私が霞んでいるとは思わないけれど、今までの人生で一番輝いている今の私の隣に並んでも見劣りしないなんて……。


 ちなみに、パレッツ王国の礼服の上着は純白になっているけれど、その中に着るものは白色なら何でもよいことになっている。

 今のアルバート様の首元から覗く色は、空色がかった白色……私の髪色と同じだった。


「すごく綺麗だ。シルフィによく似合っている。アクセサリーの色は、僕の色かな?」

「アルもすごく格好良いですわ。シャツの色……考えていることは同じだったのね」


 家族になるのだから公の場以外での敬語いらないと言われてから一月ほどが経ち、私達はお互いを愛称で呼ぶようになっている。

 この方が距離感が縮むと分かってからは、ずっとこんな風に話している。


「アルバート様、シルフィーナ様のお飾りなどに不満はございますか?」

「不満は無い。完璧だよ」

「分かりました。では、残りは指輪の確認だけですね」


 結婚指輪は式の時に嵌めてもらうものだけれど、万が一にも指が入らないということがあってはならないから、こうして事前に確認することになっている。


 私達の結婚指輪は、金と白金で作った輪にサファイアを着けたもの。

 サファイアを選んだ理由は、私の瞳の色ということと、「誠実」「慈愛」の石言葉が気に入ったから。


 その指輪を手に取ったアルバート様に左手を差し出す私。

 彼はそっと私の手を取って、薬指に嵌めてくれた。


 サイズはぴったり。


 私も、彼の薬指に指輪を嵌めていく。

 彼のものも、サイズはぴったりだった。


「問題無さそうですね」

「ああ、大丈夫だ」

「私の方も大丈夫ですわ」


 私達の結婚式まであと一か月ほど。

 その日まで指輪とは一旦お別れすることにるから、少し寂しかった。




   ☆




「シルフィーナ、遠くない未来につらいことがあるかもしれないの。

 でも、幸せになることを諦めてはいけないわ」


 私の髪を撫でながら、優しい口調で話しかけてくれる長い空色の髪の人──私のお母様は、何かを思い出しながらそんなことを言っていた。


 まだ私が十歳だった頃のこと。

 でも、その時の記憶がどうして……?


「何があっても、必ず幸せになりなさい」

「うん、必ず幸せになる。約束する」


 今は目を覚ましたばかりだから、今見た光景は夢の中でのもの。

 でも、あの約束は本当に交わした約束だった。しっかりと覚えているし、あの頃つけていた日記にも書いてある。


 そのお母様はもういないけれど……。


「お母様。私、幸せになりましたわ」


 空に向かって、そう呟いた。

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