42. 完治と妃教育

 あれから一か月ほどが過ぎた日の夕方のこと、私はアルバート様と一緒にお医者様と向かい合っていた。

 今では私が半日ほどセレスト邸に戻っていても病の症状は現れていないから、彼も私も完治したと希望を抱いている。


 でも、お医者様はすぐには答えを出せずにいた。

 不安になる私達だったけれど、数分経ってからようやく安心することが出来た。


「おめでとうございます。病は完治しました。

 どれだけ探しても、病のくすぶりは見つからなかったので、間違いないでしょう」

「そうか。ありがとう」

「良かったですわ」


 嬉しさのあまり、アルバート様に抱き着いてしまう私。

 はしたないと思われかねない行動だったけれど、彼も嬉しそうに私のことを抱きしめてくれた。


「ああ、本当に良かった。これでシルフィーナを幸せにすることが出来る」

「今でも十分幸せですわ」

「そうか。それなら、もっと幸せにして見せる」


 そんな言葉を交わす私達。

 でも、お医者様の目の前だから、それだけ話してから離れることになった。


「私も安心しております。役目は終わりましたので、これで失礼します」

「長い間ありがとう。本当に助かったよ」

「アルバート様を助けて下さってありがとうございました」

「私は見守ることしかしていませんよ。殿下を助けたのは、シルフィーナ様。貴女です」


 お医者様はそう言っていたけれど、彼が居なければアルバート様はもうこの世にいなかったはず。

 だから、感謝しないなんてあり得ないわ。


 アルバート様もそれを分かっているみたいで、お医者様の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。




 アルバート様の病が完治して喜んでいた私だけれど、あることを思い出してしまった。


「アルバート様。病が治ったということは、もう私はここには居られないのですよね……?」


 私が王宮暮らしを認められていた理由は二つあった。


 エレノアから逃れるためというのは、もう解決している。

 残りの、アルバート様の病を加護の力で治すためという理由も消えてしまった。


 だから、彼と離れることが不安だった。


「結婚するまでの間だけだ。妃教育が終わり次第、すぐに一緒の部屋で過ごせるようになる」

「そうですわね……」


 ちなみに、屋敷の使用人達はエレノアが荒らす前にもどっているから、戻ることへの不安は無い。


 お父様が私を大切にしてくれていた一番の理由が「最愛のひとの娘だから」という理由だったのは少し残念だったけれど、今はお母様のことではなく私とレベッカのことを一番に考えてくれているみたいだから、前のように助けてもらえないことも無いと思う。

 どういうわけか、処刑の翌日からお父様が異常なくらい忙しかったことも解消されたから、家族みんなで集まる時間も作れるはず。


 家族水入らずでの食事をしてみたいという思いもあるから、屋敷に戻るのが嫌ということではないのだけど……。


 アルバート様と離れるのは寂しく感じてしまう。


「……妃教育で毎日会うのだから、今とあまり変わらない」

「そうかもしれません。でも、寂しいものは寂しいのです」

「寂しいのは僕も同じだよ。だから、しばらくこうしても良いか?」


 そんな言葉と共に、抱きしめられる私。


「はい。私もこうしていたいです」


 私もアルバート様の背中に腕を回す。

 そんな時、頬に温かいものが触れれた。


「すまない、嫌だったか?」

「いえ、少し驚いただけです」


 初めての口づけ。

 恥ずかしさで顔が熱い。


 でも……。

 私だけ恥ずかしがるのは嫌だから。


 お返しに、私も彼の頬に唇を寄せた。

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