33. 歪まされた事実

「父上、報告がございます。シルフィーナとの入室の許可をお願いします」

「入りなさい」


 そんな言葉が返ってきて、扉を開けるアルバート様。

 彼に続いて私も陛下の執務室に足を踏み入れると、陛下の机の前に進んだ。


「罪人エレノア・セレストを捕らえて参りました」

「そうか。よくやってくれた。

 呪いに魔封じの縄が有効だという記録は正しかったのだな」


 アルバート様が簡潔に報告すると、陛下はそんなことを口にした。

 


「はい。ですが、シルフィーナが居なければ僕は五体満足でいられませんでした」

「どういうことだ?」


 陛下に問いかけられて、騎士団が呪いの影響を受けて謀反を起こしたこと、そして呪いが解けた今では元に戻ったと思われることを説明するアルバート様。

 私は精霊の加護があるけれど、アルバート様にはどの程度加護が働いているのか分からないから、あの場に一人でいて無事だと言い切ることは出来ないのよね……。


「シルフィーナ嬢、騎士団が謀反を起こしたというのは事実か?」

「ええ、事実ですわ。私も攻撃魔法を向けられましたから」

「そうか。呪いの影響とはいえ、何かしらの処分を考えねばならないな」


 それから話題はエレノアの件に戻って、どのように裁くかを話し合うことになった。



 本来なら重罪人は宰相様や他の公爵様の意見も取り入れながら裁かれることになっている。

 けれども、今回は呪いが関わっているから、時間を取っている余裕なんて無かった。


 悪魔の怒りを買う前に極刑に処さないといけないから。


 それでも、形だけは公爵位を持つ方々が集められて意見を述べることになった。

 もしも反対意見が出たとしても、無視するようにと私達は陛下から伝えられている。


 ちなみに、今のエレノアにかけられている罪状は、国家反逆の罪、悪魔契約の罪、精霊の愛し子に暴力を振るった罪、精霊の愛し子を毒殺した罪になっている。

 どれも極刑が妥当とされるものなのだけど……驚きを超えて感心してしまうほどの量ね……。


「では、宰相の私から申し上げます。此度のエレノアの行いは国を揺るがすほどの大罪でございます。極刑以外に処せば、貴族達や民からの反感を買うことでしょう。

 悪魔と契約し、二人の精霊の愛し子に暴力を振るうような人物は生かしてはおけません」

「次は私の番ですな。私も極刑以外にはあり得ないと考えます。理由は宰相殿と同じです。

 生かしておけば、シルフィーナ嬢の命が危なくなってしまいますから、この世に留めてはなりません」


 それからも極刑に賛成する意見が続き、ついにお父様の番になった。


「私も極刑に処すべきだと考えています。エレノアを生かしておくと言うことは、精霊に喧嘩を売ることに等しくなります。悪魔が居なかったとしても、精霊の反感を買うことだけは避けねばなりません」

「諸君らの意見に相違は無いようだ。安心した。

 しかし、セレスト公爵よ。身内から大罪人を出すことになるが、構わないのか?」

「問題ありません。エレノアが私の妻だったという事実はございません」


 そう口にするお父様。

 離縁したと言うのなら分かるけれど、最初から他人だったというのはどういうことなのかしら?


 そんな私の疑問に対する答えは、すぐに示されることになった。


「こちらの戸籍の記録ですが、いくら探してもセレスト家にエレノアという名前はありません。

 おそらく、我々は呪いによって認識を変えられていたのでしょう。セレストの長でありながら見抜けなかったこと、申し訳なく思います」

「謝罪ならエレノアを処刑した後で聞こう。今はエレノアを処刑することが最優先だ」


 このやり取りを聞いて、思い出した。


 お父様がレベッカを連れてきた時、エレノアはいなかった。

 レベッカは平民なのに魔法が扱える珍しい子だから、セレスト家で保護すると言っていたのよね……。


 でも、いつからかエレノアが義母になっていて、レベッカはエレノアの連れ子になっていた。

 今になって、正しい記憶が蘇ったみたいだった。


「話を戻そう。諸君の意見は、極刑に賛成ということで良いな?」

「「はい」」


 そう結論が出たから、すぐに処刑の準備が始められることになった。

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